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【オンリーワン企業がオンリーワンたる所以を探るVol.04】ダンボールの新たな可能性を追求し、一人カラオケボックスや非常時用ERがヒット/神田産業(福島県)社長の神田雅彦さんに聞く

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【オンリーワン企業がオンリーワンたる所以を探るVol.04】ダンボールの新たな可能性を追求し、一人カラオケボックスや非常時用ERがヒット/神田産業(福島県)社長の神田雅彦さんに聞く 取材・写真・文/大草芳江

2017年11月13日公開

簡単なものは、おもしろくない。
常に新しいことにチャレンジし、
ダンボールの可能性を追求していきたい。

神田産業株式会社(福島県須賀川市)
代表取締役 神田 雅彦 Masahiko KANDA

公益財団法人東北活性化研究センター『"キラリ"東北・新潟のオンリーワン企業』Collaboration連載企画 (Vol.03)
 福島県須賀川市に本社を構える神田産業株式会社(従業員57名、資本金2,160万円)は、ダンボールの可能性を追求し、独自のダンボール技術を活用した新たな商品開発を手がける明治30年創業の企業である。主力である各種パッケージ用ダンボールの製造では、商品の市場調査から製品開発までトータルなパッケージを提供。さらに、軽量と強度を両立するペーパーハニカム(六角形の芯材を蜂の巣状に並べた構造)に注目・研究し、新素材「ハニリアルボード」を展開。ハニリアルボードを活用した新製品開発に取り組み、大手ゲームメーカーと共同開発したダンボール製の簡易防音室は「だんぼっち」としてヒット。そのほか非常時に用いる医療用移動ER(緊急処置室)等を開発し、国内外から注目を集めている。そんなオンリーワン企業である神田産業がオンリーワンたる所以を探るべく、代表取締役の神田雅彦さんに話を聞いた。


オンリーワン企業になるまでの軌跡

― はじめに、貴社がオンリーワン企業と言われる所以を教えてください。

◆ 新しいことにチャレンジし続ける文化

2013年10月に完成した横山第3工場の外観。



横山第3工場にある、梱包用ダンボール箱加工の最新機械。その大きさに驚いた。


 当社は明治30年(1897年)に材木商として開業しました。木材を仕入れて販売する材木商から、木材を引き切る製材業、その木を使って木箱をつくる製箱業等と、少しずつ業態を変え、1960年から木箱をダンボールに切り替え、現在はダンボール製造業を営んでいます。

 曽祖父が創業した会社を引き継ぎ、私で4代目となりますが、当社の歴史を振り返ると、少しずつ新しいことに挑戦して進化し続けた結果、今の会社が成り立っていると感じます。常に新しいことにチャレンジして、変えるべきところは変えて、「社会に貢献する」という経営理念は変えず、それを商売として進める文化が根付いているのです。

 主に製造業のお客様向けに梱包用ダンボール箱を製造していますが、東日本大震災以降、お客様の工場が県外移転や生産停止、分散発注される等の影響で、福島県内の生産は徐々に減少しています。そんな中、事業の柱として製造業向け以外の商品も持ちたいという思いがありました。

◆ ハニカム構造体のダンボールで個人用カラオケボックス

 そのきっかけとなったのが、地域の中小企業等の技術シーズ事業化支援のために日本大学工学部キャンパス内に設置された「郡山地域テクノポリスものづくりインキュベーションセンター」(公益財団法人郡山地域テクノポリス推進機構)の研究室を、当社が借りたことでした。

 当初はダンボールの製造機械について研究しようという趣旨でしたが、担当者の一人が音楽好きで、音楽を練習する時の防音に何とかダンボールを使えないかという個人的な想いから、音の減衰率を測定するなど、ダンボールの防音性に着目した研究を進めていました。

個人向け防音室「だんぼっち」。標準サイズは、幅80㎝、奥行き110㎝、高さ164㎝。さらに縦長や幅広型も開発・販売している。

 そんな中、バンダイナムコグループの株式会社VIBEさんから「家庭でも音を気にせず一人カラオケができる防音室をダンボールでつくりたい」という依頼が、一般社団法人東北経済連合会のマッチング事業を通じてありました。そこから共同開発が始まり、防音性能・組立方法・耐久性など試行錯誤の末、ハニカム構造体(六角形の芯材を蜂の巣状に並べた構造)のダンボールパネルを組み立てる形式で「だんぼっち」が完成し、2014年から販売が開始されました。一人カラオケや楽器演奏の動画撮影のほかにも、漫画家の作業室や受験勉強用など、購入者のニーズによって使われ方も多様化しています。

◆ 軽さを活かして非常時用ERにも

パネル組立型ER。サイズは幅3m、奥行き2m、高さ2.2m。防水加工が施され、除菌も可能。活用はERだけでなく、エボラ出血熱などの感染症対策ユニットや、オリンピックなどマスギャザリング会場での治療室などとしても可能。海外からも問い合わせが寄せられている。

 その後、2014年に福島県から緊急時医療福祉機器開発事業の公募があり、そのテーマのひとつに非常時用の移動型ER(緊急処置室)がありました。東日本大震災では、生存率が急激に低下する「72時間の壁」が経過する前の治療が難しかったと言われています。そこで、災害現場ですぐ設置できる緊急救命スペースを開発することで社会に貢献ができるのではないかと思い、ハニカムダンボールを活用する案を応募したところ採択され、3ヵ年事業でパネル組立型ERを商品化しました。パネル組立型ERは防災訓練や国内外の展示会等で展示し、世の中に情報発信をして、様々なテレビや雑誌、新聞などに取り上げていただいています。

 当社が「オンリーワン企業」と言っていただいているのは、何とか自分たちの価値を上げていこうと、新しいことにチャレンジし、それが少しずつ形になっている結果だと思います。

◆ 試行錯誤の末に生まれた新素材「ハニリアルボード」

― 貴社のオンリーワン技術であるハニカム構造体のダンボール製品について、改めてその特長を教えてください。


ハニリアルボード(ハニカムダンボール)の断面。

 ハニカム構造体は、1949年アメリカの軍用飛行機の構造として採用され、軽さと強さの両立を目指して航空産業の中で発達してきました。これを紙て?つくることで、さらに軽く、環境にやさしいマテリアルとして、ハニカムダンボールは生まれました。構造上、特に上下方向の圧力に強く、等分布荷重の条件で、厚さ 3cm で一平方メートルあたり30,000kgf の荷重に耐えられる強度を持っています。当社では「ハニリアル(「ハニカム」と「マテリアル」の造語)ボード」と名付け、当社独自の生産技術により、2012年から様々な製品を開発しています。ハニリアルボード製品のユニークな点は、軽量で組み立てに専門知識も道具も要らないため、誰でも簡単に組み立てができ、時間もほとんどかからないことです。

― そもそもなぜユニークな商品は生まれたのでしょうか?

 「だんぼっち」はお客様からのニーズがあって、「今までやったことはないけど、やってみよう」と始めた取り組みです。パネル組立型ERについても福島県から公募事業の情報をいただき、「当社なら、こんなことができます」と提案しました。はじめにニーズがあって、それにチャレンジした結果、ユニークな商品が生まれたのです。

 普通は「そんなの無理だよ」と言ってしまうようなニーズでも、それを「やってみよう」となったのは、先程もお話したように研究室を設けていたこと。また、この研究室の部隊にはダンボール箱製造の者は一人もおらず、別に新たな人材を採用したため、従来のダンボール業界の固定観念がなく、自由な発想で開発できたからだと思います。

― 開発では特にどのような点が難しかったのですか?

 もともとダンボールは物流に関わる梱包材にしか使われていないので、それをマテリアルとして使おうという発想自体、まず我々の業界ではなかなか思い付かないことでした。

 また、「だんぼっち」も、最初は普通のダンボールを貼り付けて試作しました。ところが、そもそもダンボールは紙ですので、湿度で大きく伸び縮みしてしまい、寸法がうまく出せませんでした。さらにダンボールを貼り合わると重くなってしまうという問題もありました。ならば、ハニリアルボードはもともと厚みがあるので、それでやってみようとなったのです。「だんぼっち」がハニリアルボードを全面的に使用した最初の商品でした。

 もうひとつのポイントは、枠材をつくったことです。ハニリアルボード製パネルのまわりを枠材で囲み、その枠に色々な加工を施すことで、うまく連結できるようにすることを考えました。はじめはダンボールだけで組み立てることにもチャレンジしたのですが、組み立てが大変だったり、最初から付けておくと非常にものが大きくなったりしたので、これでは現実性がないねと、かなりの試行錯誤を繰り返しました。もう、大変でしたよ(笑)。

◆ ダンボールが活躍できる場はもっとある

― これだけ世の中に溢れているダンボールは差別化が難しい商品だと思います。そんな中で付加価値の高い商品をつくるのは、並大抵のことではないですね。

 そうなんです、感じられた通り、差別化の難しい商品なのです。それを如何に差別化していくかという想いは昔からありました。

― これまでずっとダンボールと向き合う中で神田さんが感じている、ダンボールならではのポテンシャルとは何ですか?

 軽くて加工がしやすく、音も防げますし、表面に色々な加工ができますから、ダンボールはどんなものでもできる、手軽な材料だと思います。これまでダンボール素材では困難だった防炎基準にも適合し、さらに防炎・防水・防音性能等の向上を図る研究を重ねています。価格が他の材料と比べて安いのも重要なポイントです。また、100%リサイクルできるため、環境にも優しいです。

 ダンボールで何でもできると私は思うのです。先程お話したパネル組立型ERを含めた防災関連、あるいは、避難所に設置するダンボールベッドや間仕切りなど、もっともっと、ダンボールが活躍できる場があると思うのですね。ですから色々なことにチャレンジして、さらにダンボールの可能性を追求していきたいと考えています。

ハニリアルボード製の演台(写真手前)。

ハニリアルボード製の椅子。実際に座れる。


ハニリアルボード製の机と畳下シート。写真奥のパネルは、ハニリアルボード製パネルの高品質印刷。

当社マスコットキャラクターの「ダンボ・ウルちゃん」と社長の神田さん。


横山第3工場にあるハニリアル事業部。

工場内でも至る所でハニリアルボードが活用されていた。



社長が二十歳だった頃

◆ 簡単なものは、おもしろくない

― 次に、神田さんが二十歳だった頃について、教えてください。

 私がちょっとおかしかったのかもしれないですが、あまり何も考えずに生きていたので...(笑)。将来のことが明確に見えていたわけではないですし、自分が今やりたいことを、一生懸命やっていましたね。色々やっていましたが、二十歳の頃は、波乗りをずっとやっていました。夏も冬も千葉に行き、波と天気とサーフィンに使うお金以外のことは、全く考えていなかったです(笑)。

― 今振り返ると、なぜ当時サーフィンに夢中になったのだと思いますか?

 やっぱり難しかったから。今まで色々なスポーツをやってきましたけど、こんなに難しいのは初めてだと感じたので、はまっちゃったんですね。簡単なものは、おもしろくなくて、つまらないと感じてしまうのですよ。小さな頃からそうでした。

― 冒頭の「新しいものにチャレンジする」という貴社の文化に通ずるお話だと思います。神田さんの「難しいことにチャレンジすることがおもしろい」と思う性格は、今のお仕事にもつながっていると感じますか?

 そうですね。製造業なので設備投資も行うのですが、やっぱり、新しいもの好きなので、設備もスタンダートの機械ではおもしろくないんですね。自社のノウハウと「こんな設備だったらいいな」という想いをスタンダードに付け加えることはずっとやってきました。機械屋さんに相談して「こんな設備にしたいんですけど」「いや、今までやったことないんで...」「やったことないじゃなくて、やりましょうよ」、そんなやり取りが結構あります。

 設備投資って、生産性を上げたり、付加価値を上げる、ひとつのチャンスじゃないですか。他ではやっていない考え方の設備で、よりよいものがしっかりとつくれれば、それが差別化のひとつになると考えています。


我が社の環境自慢

― 続いて、貴社の環境自慢をいくつか教えてください。

◆ 全社員が経営に参加する「アメーバ経営」

 当社は「アメーバ経営」という、京セラ創業者の稲盛和夫氏が考案した経営管理手法を導入しています。社員を2~3人単位の"アメーバ"に細分化して、それぞれがまるでひとつの会社であるかのように独立採算と見なし、その単位で毎日決算を行っています。月毎の計画も経費もそれぞれの社員が自分たちで決めます。その総和が会社全体の経費と業績ですので、全社員が会社全体の経費も業績もすべて把握できるシステムになっています。もちろん、社長の私が使った経費も全社員が見られる状態になっています。

 それぞれの社員が自分の属するアメーバの決算を意識するようになり、その改善のため自発的に働くようになるので、全社員が経営者という感覚で仕事ができていると思います。やり方によっては自分たちの成績は非常によくなりますし、お互いがお互いの働きぶりを毎日見られるので、切磋琢磨できる、やりがいのある環境だと思います。社内のコミュニケーションも非常にフランクです。

◆ 神田産業グループのフィロソフィー

全社員が携帯して毎日唱和する神田産業グループのフィロソフィー。

 その活動の良し悪しは、当社の経営理念である「顧客に信頼される商品の提案・提供をし、知識・知恵を活かし、社業の発展と全従業員の物心の幸福を追求すると共に、社会に貢献する」に従い判断します。当社の経営の考え方はすべて「フィロソフィー」として小冊子にまとめ、全社員が携帯しており、部署ごとに毎日唱和しています。さらに、毎月開催する当社の経営発表会において、全社員が前月の決算状況と当月の目標計画を発表するとともに、私からフィロソフィーの意味を1項目ずつ説明して、その考え方が根付くよう活動しています。

◆ 社員用コミュニケーションルーム

工場2階ショールーム横に設置されている、社員向けのコミュニケーションルーム。

 部署内、あるいは部署を超えて、社員同士が自由にコミュニケーションをとれるよう、工場2階に「コミュニケーションルーム」を設けており、社員はいつでも利用することができます。飲食も飲酒もOKです。勤務時間内は困りますけど(笑)、勤務終了後やもちろん土日も使えます。


若者へのメッセージ

◆ チャレンジして無限の可能性を広げてほしい

― 最後に、今までのお話を踏まえ、若者へのメッセージをお願いします。

 若い方たちには無限の可能性があります。日々の生活の中で見失いがちですが、ぜひ色々なことにチャレンジして、自分を高めてください。


― 神田さん、ありがとうございました。


社員に聞く、我が社の環境自慢

◆ 季節や天候に左右されるものづくりにやりがい。ダンボールはおもしろい
/松本良介さん(入社3年目、26歳、福島県出身)

 福島県東白川郡塙町出身です。出身が町のため、郡山市や須賀川市などで働きたいと考え、当社に入社しました。前職はお菓子屋さんでしたので、手先の器用さを求められました。手作業と機械作業の違いはあるものの、現職でも丁寧にものをつくる器用さが求められるので、前職の技が活かされ、自分に打ってつけの仕事と感じています。

 入社3年目で、機械の使い方や名前も徐々に覚えてきました。ダンボールは紙ですので、気温や湿度で材質が変わります。1メートルあたり5mmほど、湿度が高いと延びて低いと縮むため、季節や天候にも左右されますし、お客さんが使う環境を考えながらものづくりをする必要があります。その見極めが大切で、そこにやりがいを感じています。アイディア次第で、色々なものに応用できるダンボールはおもしろいです。


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