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タンパク質の結晶成長メカニズム解明めざし宇宙実験スタート/東北大・塚本教授ら

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タンパク質の結晶成長メカニズム解明めざし宇宙実験スタート/東北大・塚本教授ら

2012年7月20日公開

【図1】国際宇宙ステーション(提供:JAXA/NASA)

 宇宙でタンパク質の結晶が成長していくメカニズムを明らかにしようと、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」を利用した宇宙実験「NanoStep(ナノステップ)」が今夏からスタートする。

 東北大学の塚本勝男教授が代表研究者を務めるプロジェクトで、実験装置はあす21日にH2Bロケット3号機で打ち上げられ、半年間にわたって「きぼう」での宇宙実験が行われる。

 宇宙で結晶をつくると高品質になる例は多数報告されているが、そのメカニズムは解明されていない。結晶が成長していくプロセスを原子・分子レベルでリアルタイムに直接観察できる"その場"観察法の第一人者・塚本教授が、この謎に挑む。


◆宇宙では地上の常識が通じない

【図2】あるタンパク質の分子、一つの球が一つの原子をあらわす(引用:日本蛋白質構造データバンク (PDBj))

 結晶と言えば、食塩に代表される無機塩の結晶を思い浮かべるが、実はタンパク質も結晶になる。ただしタンパク質の分子は、無機塩の分子に比べて巨大なため、なかなか結晶表面に取り込まれにくく、結晶化が難しいことが知られている。

 さらに宇宙の場合、無重力では対流がない分、分子はゆっくりと取り込まれ、さらに成長速度は遅くなると予想された。ところが、塚本教授が宇宙でタンパク質結晶の成長速度を世界で初めて測定した結果、むしろ成長速度は速まるケースもあるという新しい現象を発見した。

 宇宙では地上の常識が全く通じない。だからこそ、宇宙でつくった結晶を地上で回収してから調べる従来の間接的な方法ではなく、宇宙で結晶が成長していくプロセスを"その場"で直接観察する必要がある。そう塚本教授は指摘する。


◆世界に誇る"その場"観察装置

【図3】結晶成長"その場"観察装置の内部

 そのためのプロジェクトが「NanoStep」だ。そもそも結晶は原子・分子レベル(nanoサイズ:ナノメートルは1メートルの10億分の1)の階段(step)が、積み重なることで成長する。そのプロセスを直接見ようと塚本教授が開発したのが、"その場"観察装置だ。

 原子・分子レベルのわずかな結晶成長を直接"その場"で観察できる実験装置は、そのユニークさが欧米で評判となり、ISS搭載用装置の基本的なアイディアにつながっている。今回の実験では、新たな装置(図3)を宇宙に持込み、半年間にわたって結晶が成長するプロセスを詳細に観察する。

 新薬への応用も期待されるタンパク質。その研究や開発には高品質なタンパク質の結晶が不可欠だが、結晶化は極めて難しい。塚本教授は「宇宙で結晶が成長するメカニズムを明らかにすることで、地上でも高品質な結晶をつくる指針にしたい」と話している。

【関連記事】詳しい実験内容は塚本勝男教授ロングインタビュー(第3回)をご覧ください。


◆宇宙実験には大勢の専門家の力が必要

【図4】9日に行われた「NanoStep」運用キックオフ会議=JAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)

 宇宙実験には大勢の専門家の力が必要だ。JAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)で9日に行われた運用キックオフ会議には、実験運用の関係者ら約60名が参加。本実験の概要や運用方針などが確認された。

 本実験は、"その場"観察装置を宇宙飛行士が取り付けた後、運転や制御のほとんどを地上からリモートで行う。実験運用の担当者らは24時間体制で、溶液の濃度や温度の条件を変えながら、結晶表面の微細な変化やわずかな成長速度を詳細に測定する。

 本プロジェクトを遂行するにあたって、苦労した点や期待する点とは何か。各関係者にインタビューした。


◇成功して欲しいの一言
/宇宙航空研究開発機構(JAXA)の吉崎泉さん

 共同研究者としては、宇宙では結晶の成長速度や品質・欠陥等がどうなるのか、明らかにできることを楽しみにしている。一方で、JAXAの実験担当コーディネーターとしては、成功して欲しいの一言だ。

 これまでの宇宙実験では、一つの大企業が頑丈な実験装置を全部つくるケースが多かった。しかし今回は、様々な制約がある中でハイレベルな実験をするために、複数の会社にそれぞれの得意分野を受け持ってもらって実験装置をつくった。

 宇宙実験にしては繊細な装置を打ち上げるため、装置がきちんと動いて実験が成功して欲しいと願っている。コーディネーターとしては、今回、複数の会社の人たちが関わったため、特に関係者間での調整に苦労した。

 本プロジェクトは、実験運用にも大勢の人が関わる長期的な実験。皆が体を壊さずに、きちんと良い成果が出て、それを「みんなで頑張ったおかげだな」と思えるような宇宙実験に是非したい。


◇実現化が難しい実験だからこその喜び
/財団法人日本宇宙フォーラム(JSF)の島岡太郎さん

 当財団は、宇宙実験採択後の「実験計画書」作成の支援を中心に、採択前の地上実験から実際の実験運用まで、最初から最後まで本プロジェクトに関わっている。実験後の解析も必要があれば是非支援したい。また、宇宙実験の成功のみに留まらず、例えば論文を書くなどの研究成果に結びつくよう注視している。

 本プロジェクトは、技術的にも非常に高みを目指している実験で、現代の技術の粋を集めて装置がつくられている。特に、宇宙実験という制約の中、反射型干渉計を上手く用いて綺麗な画像を得る点が大変難しく、さらにそれを地上からリモートで調整する点が極めて難しい。逆に言えば、それだけ実現化が難しい実験のため、地上からリモートで調整し、非常に成果の高い画像を得られることが、私としても大きな喜びになる。

 本プロジェクトには様々な会社が関わっているが、個人的なポリシーとしては、どこの誰が何をやっても良いので、とにかく本実験が先生の要望を可能なだけ達成し、得られた結果が素晴らしく、社会的にも科学的にも高い成果であること。それが私の希望であり、喜びだ。


◇高レベルな要求を実現化するまで議論を重ねた
/有人宇宙システム株式会社(JAMSS)の曽根武彦さん・水野哲朗さん

 本プロジェクトの運用にむけた準備から、軌道上の運用までを担当している。準備では、実験計画書を今後の運用に向けて具体化していく作業を担当。要求が全て決まれば、次段階であるハードウェア開発も支援する。その後の運用については、チーム内で分担し一緒に行う。

 本プロジェクトでは、先生の要求が高いため、実現性を出すよう要求を具体化するまでの検討が最も大変だった。なお、実際の軌道上実験開始までには、地上実験で温度を制御する条件の検討作業が残っており、まだ、準備の9合目といったところである。

 今回は、これまでにない方式で実験のハードウェアを組んでいるため、実現化に向けて、開発メーカ―やJAXAさん、JSFさんと皆で意見を出し合いながら、何とかフライトまで漕ぎ着けた。特に、反射型干渉計を用いて、なおかつタンパク質の結晶表面を見るというやり方自体が初めての実験なので、何とか成功して欲しいと期待している。


(取材日: 2012年7月9日、於:JAXA筑波宇宙センター、文責:大草 芳江)


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