未来社会を創造する、真のグローバルリーダーとは?/中鉢良治産総研理事長と山形大学大学院生が座談会で議論
産業技術総合研究所(理事長:中鉢良治、以下産総研)では、将来のイノベーションを担う研究開発人材の育成を目的として、博士号を持つ若手研究者を産総研の特別研究員として受け入れ育成する「産総研イノベーションスクール」(※)や、優れた研究開発能力を持つ大学院生を産総研リサーチアシスタント(契約職員)として雇用する制度、全国の大学等での講演活動等、様々な取り組みを行っている。さる平成29年11月15日、山形大学フロンティア有機材料システム創成フレックス大学院(以下iFront)からの依頼で、中鉢産総研理事長と山形大学iFrontの大学院生9名との座談会が実現した。座談会は山形大学米沢キャンパス(山形県米沢市)にて開催され、「今後の社会に期待される博士人材とは?」をテーマに熱心な議論が交わされた。
※ 産総研イノベーションスクール:博士号を持つ若手研究者を産総研のポスドク(産総研特別研究員)として受け入れ、特定の専門分野について科学的・技術的な知見を有しつつ、より広い視野を持ち、異なる分野の専門家と協力するコミュニケーション能力や協調性を有する人材として育成する制度。博士人材の活動の場の拡充を目的に産総研が2008年度から開講し、スクール生は産総研の一員として研究を推進しつつ、講義・演習、企業研修を内容とするカリキュラムを実施する。これに加えて、大学院生のみを対象とする講義・演習からなる研究基礎力育成コースを2014年度から実施している。
◆ 今後の社会に期待される博士人材とは?
今野:山形大学iFront産学連携教授の今野千保と申します。本日は、産総研中鉢理事長を含む13名の方々にお集まりいただきありがとうございます。私事ですが、山形大学に赴任する前は中鉢さんと同じくソニー(株)に勤務しており、一時期、中鉢さんの組織下で薫陶を受けながら色々な新しい仕事にチャレンジさせていただく中で、自分自身、成長することができました。その雰囲気を学生にも味わってもらいたいと思い、本日は短い時間ではありますが、この場を設けさせていただいた次第です。座談会の参加者は、本学iFrontの学生9名です。iFrontとは大学院の修士課程と博士課程の5年間一貫教育で「未来のグローバルリーダー」を育成することを目的とした、文部科学省の「博士課程教育リーディングプログラム」平成24年度採択事業で、平成30年3月に1期生を輩出します。本日の座談会では、テーマに基づき多様な視点で議論することを通じて、学生が各自の考えを整理し、新たな気づきを得て視野拡大を図り、各自が目指す将来像にむけて新たに行動する契機となることを期待します。ここからは、学生主体で座談会を行います。進行はモデレーターの高橋君(博士課程2年)にバトンタッチします。
高橋(博士課程2年):モデレーターを務める高橋です。本日の座談会のテーマは「今後の社会(産業界&アカデミア)に期待される博士人材とは?」です。議題1で「今後における社会の変化と大学・公的研究機関・企業の役割について」を明確にした上で、議題2で「これからの社会でどのような人材が必要とされるか」を議論し、我々が目指すべき博士像と、そのために今なすべきことを明確にしたいと思います。
◆ "Know What "を追求せよ
高橋:それでは、はじめに私からブログなどで拝見した中鉢先生の意見を紹介させていただきます。「新しいモノづくりでは、未来社会で必要なものを知る"Know What"が重要となる。モノづくりが経済成長の源泉で多くの消費者に豊かさをもたらしてきた時代の「モノ」と、モノが溢れる現代の「モノ」とでは、自ずとその価値は異なる。かつての社会では消費者が欲しがるモノは何かを知る"Know What"が明瞭だった。一方でモノが氾濫している今日、何が有用で、何が不要か、未来社会で新たに必要なものは何かを知る"Know What"が重要になる。結果として研究の位置付けの変化が必要となる。これまで大学は基礎研究、公的機関は応用研究、企業は商品開発・生産と棲み分けの時代が続いてきたが、これは"Know What"の解決策にはならない。これまでアカデミアは研究論文の作成・発表が目的だったが、これからは研究を如何に社会に役立てるかが重要になる。したがって産学官が明確なビジョンを議論・共有することが鍵となる」と仰っています。
中鉢:最後は一般論になりましたが補足しますと、"Know What"の対語として"Know How"があります。かつてのモノづくりの時代では、メーカーは"Know What"よりも、それをどのようにつくるかという"Know How"、つまりコストとクオリティとデリバリーの3つが競争のポイントでした。学生が就職する時も、例えば「S社に就職して、テレビをつくる」というように、企業を選んだ瞬間に何をつくるかは既に決まっていました。しかし、"Know What"の時代においては、将来「テレビをつくる」ことが本当によいかを学生の間に考える必要があるということです。それは、アカデミアにも同じことが言えます。私も大学院では博士号を取得し、研究者を志した時期もあるので、自分の研究が我が子のように可愛く、研究を続けて結果を出した上で評価いただきたい気持ちは理解できます。しかし、自分の研究が25年後、50年後の未来に、本当に役立つかどうかを、研究者は考える必要があるでしょう。それが"Know What"ということです。
ところで、議題1については、そもそも結論の出ない問題ではないでしょうか。今後における社会の変化なんて、正確なことは、誰にもわからないことです。産業界とアカデミアの役割については、だいたい予想される答えがわかるでしょう。敢えて議論する必要があるのか疑問ですが、私個人の見方を補足します。政府が第3期(平成18~22年度)から第4期(平成23~27年度)の科学技術基本計画を策定した時、私は内閣府の総合科学技術会議の議員として、その策定に関わりました。第3期では重点投資すべき8つの研究開発分野を決めて産学官連携の推進を図りましたが、現状で期待した社会・経済的な効果は十分に得られなかったと総括しました。このうち特に難しかった課題が、産学連携とモノづくりと人材育成の3つでした。そこで社会・経済的な課題を解決するための研究を推進するべきということで、第4期では「課題解決型の研究」を掲げていました。しかし、それでは基礎研究が疎かになるとの問題意識から、第5期(平成28~32年度)に入っていくわけです。要するに今、日本が総力を挙げて解決すべき課題が未解決の段階で「産学官連携を進めろ」と言っても、「それは大学の役割でしょう」「それは産業界の役割でしょう」と、何となく皆が「総無責任化」して元の木阿弥になるだけではないでしょうか。それが非常に問題だと個人的には思っていて、いろいろなところで書いているので、ここで繰り返しても仕方がないと思います。したがって、議題1の「アカデミアと産業界の役割を明確に」という問題設定がわからないのですよ。
◆ そもそも「グローバル人材」とは?
中鉢:それよりも私は、iFrontでどのような「グローバルリーダー」を育てようとしているのか、ぜひ皆さんに聞いてみたいのです。そもそも「グローバル人材」とはどのような人材だと皆さんは考えていますか? 米国などの海外では、「グローバル人材」と言っても意味が通じません。それが仮に「世界を舞台に活躍する」ことであるならば、「米沢で活躍する」ことは「グローバルではない」のでしょうか?
福田(博士課程3年):私の考えるグローバルリーダーとは、働く場は米沢でも、「明日米国に行って、こんな話を聞いてごらん」と言われ、障壁を感じず海外に行ける人材だと思います。普通の日本人学生は、英語を話せないとか、海外でのコミュニケーションの仕方がよくわからないことに、かなりの障壁があるからです。
中鉢:あなたは何年、英語を勉強しているの?
福田:中学生の頃から数えると、15年です。
中鉢:15年も勉強して英語が話せないのなら、グローバル人材になるには何をやればいいと思いますか?
福田:iFrontを始めてから英語は話せるようになりました。そこで一番ためになったのが「学んだことをアウトプットする機会」です。大学4年生まではただ知識を詰め込むだけでしたが、学んだ知識を実際に使う立場にならなければ、自分が本当に理解できているのかどうかの判断がつかないと感じました。
中鉢:学んだ知識を使う機会があると、ぐんと伸びるんだよね。そのためのカリキュラムであるべきですね。
梅本(修士課程1年):海外の大学と共同研究できる能力を持ち、その経験を用いて外から日本の問題を意識できる人だと私は思います。外からでしかわからない観点もあるのではないでしょうか。
中鉢:大事なポイントですね。
後藤(博士課程3年):日本だけにとらわれず海外の人とも積極的にやり取りができ、自分のやりたいことを対等に進められる能力を有する人材だと思います。
中鉢:すると、今あなたが山形大学で専門分野を身に付けていることは、非グローバル化の動きと言えますよ。
後藤:そうではないと考えます。例えば、世界で一番高いレベルで研究をしている時点で、「グローバル」と言えるのではないでしょうか。
中鉢:それは客観的に世界1位と言えますか?クラリベイト・アナリティクス(旧トムソン・ロイター)の高被引用論文数による研究機関ランキングで、山形大学は世界1位ではないですよ。
江部(修士課程1年):私は、日本人も海外の人も区別することなく仕事ができる人だと思います。
中鉢:そう言うのなら、国際交流に重点を置く、東京の大学の方が、圧倒的にそのような場は多いと思いますよ。なぜ山形大学なのですか?
江部:国によって、あくまで使用言語が異なるだけで、重要なことはコミュニケーションの障壁が無いことであると私は考えています。それは日本人に対しても同じで、山形でもその場は多いと思います。
榎本(博士課程3年):私の考えるグローバル人材は、どこにいても自分の能力を発揮できる人材です。そのために自分が取り組んできたことのひとつが、インターンシップです。私の専攻は化学系ですが、電気電子系の市内企業にインターンシップに行った時、専門用語が飛び交う中、日本人同士であるにもかかわらず、日本語が通じない事態に直面し、どうすればコミュニケーションを取ることができるか必死で考えました。専門領域や国が変わったとしても、自分の能力を発揮し、生き残れる人材がグローバル人材だと思います。
小松(博士課程3年):英語はあくまでツールであり、そのツールを用いて、メンバーの国籍によらず、プロジェクトの目的達成まで導ける人材がグローバルリーダーだと思います。
宮根(博士課程2年):私も、国籍や専門分野、バックグラウンドや価値観が異なる人をまとめられる人が、グローバルリーダーだと思います。その場とは、海外のみならず、別に米沢でもいいと思います。例えば、自分の隣にいる非常に変わった日本人とうまくやっていける人も、ある意味ではグローバル人材ではないでしょうか。
佐々木(修士課程2年):私も、文化の違いを受け入れた上で歩み寄っていける人材がグローバルリーダーだと思います。それは日本国内でも同じで、他県でも文化や政治等に関する考え方の違いがある中、それもひっくるめて歩み寄り、よい結論を導き出せる人材だと思います。
◆ 米沢でグローバル化は可能か
中鉢:はじめに福田君から「グローバルに活躍するには、英語のコミュニケーション能力がツールとして欠かせない。そのために一番効率的な方法は、実際に外国人と接することだ」という意見があったね。一方で、宮根君らからは「必ずしも海外へ行かずとも、米沢でもグローバル化はできる」という意見がありました。それでは、米沢でグローバル化するには、どうすればいいでしょうか? これはちょっと難しい問題です。「不可能」という答えがあってもいいですよ。
福田:私は可能だと思います。最近は研究成果もすべてインターネットにアップロードされ、世界中から簡単に見ることができます。その上で世界のどこかから、たとえ一人であっても、「おもしろい研究をやっているな」とこちらにコンタクトがあれば、米沢でもグローバル化はできるのではないでしょうか。
中鉢:評価されることだね。英語で書く必要はあるが、米国に行かなくとも、それは可能であると。
梅本:海外から研究者を招聘して、米沢で国際学会を開くこともグローバル化のひとつだと思います。iFrontでは学生主体の国際学会を毎年10月、山形大学米沢キャンパスで開催しています。海外から毎年約15人の研究者を学生自ら招聘し、第5回となる今年は約60人の方が米沢を訪れました。
後藤:海外の人から「魅力的で真似したい、技術を学びに来たい」と評価され、海外の人が米沢に来た時点でグローバル化だと思います。確かに山形大学はクラリベイト・アナリティクスの研究機関ランキングで世界1位ではありませんが、城戸淳二教授は、同社の「世界で最も影響力の大きい科学研究者(高被引用論文著者)」に4年連続で選出されています。私は「世界一の塊」で有機合成の研究をしています。
小松:私も後藤君と同じで、評価されることがグローバル化に必要だと考えています。私は城戸研究室で有機ELを研究していますが、城戸研究室が有機ELで世界一の技術を有するからこそ、世界中から著名な研究者を米沢に呼ぶことができます。私が城戸先生に憧れる理由は、まだ有機ELが流行っていなかった20数年前から、研究の種を見つけて研究開発を行い、今日のグローバルな環境があることです。城戸先生のように、私も研究の種を見つけて研究を頑張っていきたいです。
中鉢:では、城戸研究室に入ったことは間違いだったということになるのではないですか? 華やかな領域に入った時点で、その目的は達成されちゃうじゃない。まだ花開いていない、マイナーな領域で目指さなきゃ。
小松:今後、有機ELで身を立てようとは考えていません。
中鉢:米沢でグローバル化は果たせる。それは一流の人につくべきだ、と。
小松:いいえ、一流のことをすべきだ、と考えています。
中鉢::山形大学の有機分野に世界トップがあることはわかりました。しかし、するとなぜ米沢に来て有機合成以外の勉強をするのかという疑問が生じますよ。山形大学で城戸先生以外は全部ダメなの? ということになっちゃうでしょう。
宮根:私もやはり評価されることが必要だと思います。自分の研究で結果を出し、外国からも評価される必要があるのではないでしょうか。
中鉢:福田君が言ったように、研究者としてプロになり、かつ自他ともに評価される人材になることがグローバルに近づくことではないか。それは米沢でも可能だ、ということだね。
佐々木:グローバル化には異なる文化圏へ行くことが大切だと私は思います。そのためには、私は、米沢の外に出る方が得られるものが大きいと思います。
江部:異なる文化の人と関わることは、グローバル化の重要な要件だと私も思います。それは米沢の中でも、例えば地元の元気なおばさんから交流することも、その一歩となりうるのではないでしょうか。そもそもローカルのことを知らずに海外へ行っても、何がグローバルかがわからないと思います。
中鉢:ローカルな中にもグローバルの因子があるということだね。
榎本:グローバル人材になるための環境は米沢でもつくれると思います。そこで重要なのは、自分自身のモチベーションではないでしょうか。たとえ海外に行っても、自分自身が仲良くしようと思っていなければ、実際のグローバル化は進まないと思います。私はできるだけ、米沢市内でも自分の専攻とは異なる企業に入り込み、交流を図るよう心がけてきました。
中鉢:どんな目論見で交流を図っているのですか?
榎本:これから直面するであろう様々な困難に備えるための訓練です。実際に異分野の企業にインターンシップに行った時、最初の1週間は、同じ米沢にありながら、同じ日本人でも、意思疎通が十全に果たせない事態に直面し、苦しい想いをしました。そのような経験をする状況に自ら取り入れられる環境をつくることが先決だと思います。
中鉢:いいことを言いますね。では、山形大学と産総研からも「グローバル人材の育成」について、意見をぜひ聞かせてください。
高橋:山形大学の落合文吾先生、お願いします。
落合:私はiFrontの教育ディレクターを務める立場ですが、実を言うと、個人的には「グローバル人材」にはあまり興味がないのです。
会場:(笑)
中鉢:いやいや、私は賛成だ(笑)。特定の訓練を受けたからと言って、グローバル人材になれるというものではない。グローバル人材になりたければ自らなれ、なんだ。
落合:自分が好きなことを突き詰めた結果として、必然的にグローバル人材となる場合はあると思います。今の時代は日本だけで閉じて生きていくことが難しい社会ですから、グローバル化は避けられないでしょう。私自身も、同じ日本国内であっても地域によって固定観念が異なること、その差は海外でさらに大きくなるという経験をしました。これから商売等をしていく相手は、自分とは異なる観念を持つ相手ですから、自分の固定観念を打破することの重要性は感じています。ただ、それでは全員が全員、グローバル化する必要があるのか? といえば、それはよくわからないですね。
中鉢:とても賛成するところがあるのだけど、産総研から松田所長、お願いします。
松田:産総研東北センターの所長を務めている松田宏雄です。山形大学の学生の皆さん、流石によいことを言うなと思ったことは、まず、地元の人と話ができることが大事ですよね。私も、30年以上つくばで勤務した後、2年半前、仙台市にある東北センターに赴任した時、東北の皆さんと仲良くするために東北のことを一生懸命勉強しました。今日は皆さんから「国際的に仲良くする」のがグローバル人材だという意見が多かった印象です。一方、「世界と喧嘩して勝てる」人材という意見はなかったですね。「評価してもらいたい」って、どこか受け身ですよね。日本の人口は減少し、資源も食料も豊富にはありませんから、外国から買ってくる必要があります。そこで産業で勝ち抜くためにグローバル人材が必要だと議論されているので、「国際的に喧嘩して勝てる人間になろう」と思ってもらうことが大事だと感じました。
中鉢:「グローバル人材とは世界で喧嘩して勝てる人材だ」と言った人がいました。ソニー創業者の盛田昭夫さんです。彼の口癖は「Think globally , Act locally.」でしたね。
今野:盛田さんは、ご家族とともに米国ニュージャージー州に移住した時、「モノをつくる技術と考え方の物差しは、国際的な基準でなければいけない。しかし顧客のニーズは、ローカルで生活して体験し、はじめてわかるものだ」という趣旨でそう仰ったと理解しています。
中鉢:私個人の話をすると、私の生まれは宮城県大崎市の鳴子町で、まわりには山しかなく、毎日が同じ風景でした。次男は家を出る必要があったので、非常にドラマティックな気分で仙台に出てきました。仙台の高校に入り、仙台の大学に入って、仙台から通える企業に勤めることになったので、自分は世界で一番幸せだと思っていました。家族を第一に考えれば、仙台にいることが一番ですから、仙台を離れることに関し、私は極めて保守的だったのです。それが全く私の意に反して、社長から突然「米国に赴任してくれないか」と命じられました。それで米国に渡り、大変な思いをして戻った後はずっと東京で、以来、故郷には帰っていません。企業の社長という立場になれば、世界を舞台に仕事をする機会は増えるので、仕事をこなすうちに少しずつ「世界を股にかけて仕事をしている」と実感したことは事実です。しかし、「これがグローバルだ」と意識したことはないです。つまり、集中訓練を受けて「自分がグローバル人材になった」という実感が生まれたわけでなく、ひとつひとつ、現実世界からのフィードバックを受けながら学んできたのです。
ただ、訓練で「役に立った」と思ったのは、ある外資系コンサルティング会社が主催した、世界に通用するビジネスパーソンを10年間で1,000人養成しようという研修プログラムへの参加でした。最初の1ヶ月は日本で合宿し、次の1ヶ月は米国、最後の1ヶ月は欧州で、世界のビジネスを学び、使用言語は基本的に英語でした。海外に行く前は「グローバルは知らない、ローカルは知っている」という錯覚があったんですね。知らないことは不安だからグローバルに対する不安感がある。けれども海外に行っただけでも「大体こんなものか」と覚悟のようなものができ、本当に少しずつ、1mmずつですが、徐々に普遍性のようなものを感じるようになりました。それが成長だと私自身は感じました。
高橋: iFrontでも海外での長期インターンシップを課しています。それに関して学生から意見をお願いします。
小松:中鉢さんも仰ったように、iFrontでは自分の希望とは関係なく学生全員が半年から1年間、海外に派遣されます。私もドイツで約9ヶ月間の研究生活をする中で、多少の違いはあれども、研究スタンスは結局「日本と一緒だ」と感じました。そのような経験を積ませてもらえることは、このプログラムのよい点だと思います。
中鉢:アナロジーだね。「ここが違う、ここが一緒」というデータベースが増えてくると、次回海外に行った時、学んだことを実践し、それで失敗するかどうかを検証しますね。それが「同じ」となれば、高い精度で「これは正しいのではないか」とわかってきます。それが「経験」というものです。
◆ "こだわり"は捨てるべきか
中鉢:先程意見があったように「固定概念を捨て、物事を俯瞰的に見る」という能力も非常に重要ですが、世の中のことがわからないのに、世の中全体を完璧に見ることなんかできないですよ。それに、"こだわり"を無くすわけにはいかないです。"あなた"から"こだわり"を引けば"ゼロ"になります。つまり、自分が一番大切だと思っていたものがなくならない限り、こだわりはなくなりません。なぜなら、それは自分のコアだから。理屈では皆さんは「こだわりは捨てるべきだ」と言いますが、こだわりを捨てたら、あなたに何が残るのですか? 自分のこだわりをアイデンティティだとすると、皆さんのアイデンティティの中に非常に矛盾に満ちたものがあるはずです。例えば、自分はグローバルになりたいけど、すごくドメスティックだなとか。それを「絶対矛盾的自己同一」と、約100年前の哲学者の西田幾多郎さんが言いました。基本的に矛盾した世界がリアリティですよ。「この矛盾はどこに行ってもあるんだな」と感じるには、生まれてから65年はかかると私は思っているのです(笑)。そういう矛盾に対して、学生の頃は強い反発を覚えたものですが、それと共存しながら色々なことを学んでいくのでしょう。未だ何者でもない学生の皆さんは、むしろ今、こだわっていいのですよ。
福田:私はこれからの社会で、"こだわり"は無理にでも捨てる必要があると考えています。私自身「有機合成だ!」とこだわるあまり、だんだん自分の技術に酔ってしまい、例えば新しい材料をつくる時、つい複雑なプロセスで実現しようとしがちです。しかし、本質を見つめ直し、別の視点から見れば、シンプルな別のよい方法があるかもしれないし、有機合成すら必要ないかもしれません。自分自身を変えることは非常に難しいですが、自分の環境を変えることは比較的簡単にできます。環境を変えれば、それに応じて自分も徐々に変化するので、自分の専門領域に対する"こだわり"から敢えて飛び出してみることが、これからは必要ではないでしょうか。
中鉢:大事なことに気付きましたね。福田君の意見に対して、産総研側からコメントを。
中岩:産総研の福島再生可能エネルギー研究所で所長を務めている中岩勝です。米国に代表される多様性に富んだ社会の中でこそ、自分が生きる上で"こだわり"が必要ですし、多様性を受け入れることと自分がこだわることは矛盾しないと思います。例えば、「クールジャパン」という今日の日本の強みも、日本が文化や技術にこだわっているからこそ、世界に注目され、グローバルに通用しているのではないでしょうか。
中鉢:"こだわり"について、山形大学の野々村美宗先生からも、お願いします。
野々村:私の研究対象である化粧品は、グローバル化しやすい領域です。なぜかというと、「美しくなりたい、美しくしたい」という価値観は世界共通だからです。私は"こだわり"とは武器であると捉えています。私の武器に興味を持つ人たちが世界中にたくさんいて、女性を如何に美しくするかを一緒に考えることに、国や会社の垣根はほとんどありません。私自身、グローバル人材ということを意識したことはなく、英語も達者ではありませんが、私の武器を皆がおもしろがってくれることが楽しいです。ですから私は、iFrontの5年間で、学生の皆さんに多くの武器を持ってもらいたいと考えています。
中鉢:技術者、研究者として活動していく根底には、"Something like philosophy(哲学のようなもの)"を持つことが必要です。そして、研究者や技術者の倫理等々、コアとなるルールを共有した上で、"尖った"ところをリスペクトしなければ、多様性というものがバラバラになってしまいます。その上で、自分は「そこは譲れない」というものを堂々と主張し、相手に認めさせることが、"こだわり"ではないでしょうか。すると、だんだん自分に役割がまわってきて、「自分も第一人者になったのかな」と実感し、やっと自分を認めて、少しずつ安心できる。そうやって人は成長するものだと私自身は感じます。自分で思うだけなら、単なる自惚れですからね。
福田:自分の"こだわり"をつくることについては賛成です。しかし、それを相手に押し付けるのは、いかがなものでしょうか。
中鉢:それは、学習効果ですよ。こだわりを相手に主張して、「これをやったら嫌われた」「これをやったら好かれた」という経験を積んでいくと、だんだん嫌われることをやらなくなります。最初から自分がこだわったことがすべて社会に受け入れられるとは限りません。私だって、これまで圧倒的に失敗の方が多いですから。
福田:基本的に自分が話したいことを話しても相手は全く聞いてくれないので、相手の興味を引き出しつつ話す必要があると思います。そのためには、日本人は苦手なことですが、「相手の利益になりますよ」という"したたかさ"を養う必要性があるのではないでしょうか。iFrontでは発表の機会を多く与えられます。その相手は専門家の時もあれば非専門家の方、一般の方々の場合等々、毎回オーディエンスが変わるため、相手の反応を見つつ、話し方を変えなければいけません。そのトレーニングが役に立つと思いました。
中鉢:福田君は十分その能力を持っていますよ。それは何かというと、「率直にものを言う」ことでしょう。企んでは駄目です。わざとらしくないのが人の共感を呼ぶのでしょうね。
福田:それは生まれ持っている人だけができることではないでしょうか。
中鉢:そんなことはないですよ。皆、努力しているのです。例えば、茶道や武道等でもわざとらしいのは、いけないのです。では、それは自然に知るものですか? というと、そうではありません。日本では伝統的に、まず型を守ることから始まり、型を破り、型を離れる、それが道の極め方であると言いますね。けれどもその型を真似るだけでなく、型の中に心を込めなければいけないのでしょう。そして心を込めると、また新たな型ができると思います。
◆ 部分最適と全体最適のジレンマ
中鉢:いずれにせよこれからの社会は"Something like global"になるでしょう。世界との関わりなくして社会も経済も成長しないので、世界に対してよりオープンになる必要があります。そこで私は、「持続可能性」について言及したいと思います。それには、まず歴史を振り返って産業革命の意味を考える必要があります。これは全くの私見ですが、産業革命に必要な要素は3つあり、1つ目は圧倒的なイノベーション、2つ目は資源、3つ目は資本だと思います。この3つが揃ったのが、イギリスにおける産業革命です。ところが、それから約300年が経った現在、技術はリスク社会を生み、資源は枯渇し、資本は格差を生みました。つまりこの3つによる産業革命のコアが壊れたのです。したがって、産業革命の延長線上ではない、新しい価値観に基づいた「持続可能な社会1.0」をつくる必要があります。これが"What"を探す時の基本です。皆さんが取組んでいる一つひとつのことは、25年後、50年後、持続可能な社会に本当に役立ちますか? と、自分の胸に手を当てて考えてください。つまり、「未来に対してアウトリーチせよ」ということです。持続可能性とは、「今を続けること」ではなく、「未来に手を伸ばすこと」であると私は考えています。では、その"What"を探すのに誰が一番近いのか? と言えば、未来に「生きたい」という願望が未来技術を生むと私は思っています。そもそも温暖化や大気汚染で困るのは、地球ではなく人間です。「地球に優しく」と問題をすり替えるのではなく、未来社会の「人間に優しく」するにはどうすべきか。それこそが、人類が総力を挙げてグローバルレベルで解決しなければならない課題ではないでしょうか。
高橋:未来に対するアウトリーチについて、産総研や山形大学からご意見をお願いします。
伊藤:産総研東北センターで所長代理を務めている伊藤日出男です。全世界的に持続可能性が重大な課題である今、求められるグローバルリーダーとは、「自分のやりたいこと」が「地球のため、人のためになる」という「良い巧み」をできる人材だと私は思います。しかし一人の力でできることは限られているため、良い巧みをするにはキーマンと連携する必要があり、そのためには相手からリスペクトされる必要があります。そこで必要なことが、ここだけは誰にも負けないという、自分のアイデンティティを持つことです。さらに世界中の多様な人と連携して良い巧みをする時、必ずしも相手が自分を理解してくれるとは限りませんが、少なくとも相手にも自分とは別の一本の芯があることを受け入れ、良い巧みができる人になって欲しいです。良い巧みをする相手にリスペクトされるためにも、人類が生き残るためにベストを尽くすためにも、学生の皆さんは今をぜひ頑張ってください。
中鉢:それは現実には難しい問題ですよね。部分最適と全体最適のリアリティは、その真中にあるから。部分最適とは一番細かくすると自分自身、全体最適とはグローバルと考えた時、「自分は生き延びたい」と思うのはエゴでしょう。けれども、それは社会のためにはどうか。「『地球のためによくない』と口で言うことはあっても、それは自分のためにやっているものだ」と考える人もいれば、「自分を犠牲にしてでも地球のためにやろう」という人もいます。これは相矛盾して、どうもこれは「性は善なるもの」「性は悪なるもの」と考える人の二つに分かれるようです。そう区別して、その時その時で判断する二重人格が圧倒的に多いですよ。それがリアリティというもの。「良いことはしなさい、悪いことはするな」と言われてもなかなか難しい。約2,500年前に釈迦が言ったことを今でもできかねていて、仏教の教えとして扱われているのですから。まずは難しいものである、という認識が必要ですよね。
学生の皆さんは今こだわりをつくる段階であって、捨てる段階ではないですよね。人生まず何でもかんでもやってみたらいいでしょう。良いものと悪いものを区別する必要すらありません。そして、それを評価するのは少し経ってからやった方がいい。良いものかどうかは、65歳くらいになってからわかるものですよ。悔しかったら65歳になってみなさい(笑)。すると、若い頃は如何にくだらないことを考えていたかがわかるでしょう。
◆ 「役に立たない」ことは無駄か
福田:もともと私は専門分野以外にも興味があり、学部時代も本を読んで勉強していました。研究室に入ってから、結局、それが何の役にも立たないことがわかりました。ですから、今の私の考え方としては、自分が本当に必要なものに対して自分勝手になれる人の方が、結局は得をしていると思います。しかし、それでは持続可能性とは反するため、国などが「人間のため」「未来のため」に頑張る人を評価する必要があると思います。現状そうなっていない中で、頑張る意味はあるのでしょうか?
中鉢:若いうちは、「役に立たない」と思うんだね。私は大学院で鉱山学を専攻して博士号を取得し、ソニーに入社しましたが、大学院で学んだ専門知識は直接的には役に立ちませんでした。"無駄なこと"をたっぷりやったわけです。しかし、かつて研究者を志した経験は、65歳になって、産総研という研究機関に入ってから大変役に立ちました。また、研究のプロセスで学んだことや、当時は不条理だと思った先生からの叱咤激励も、今になってみればそれらの経験が自分にとって必要な資質になったと思います。つまり、自分の経験が自分の人生のどこでどう役立つかはわからないものです。ですから今はできるだけ"無駄なこと"をいっぱい経験して、いっぱい引き出しを持つことの方が大事です。
福田:唯一、今のところ役に立っているのは、他の人と話ができることくらいです。
中鉢:他の人と話をすることは大事なことですよ。皆さんが学んでいるような勉強は、ほぼ独学でできますが、唯一できないことがあります。それは、果たして自分のレベルはどこか、というベンチマークですよ。昔は、大学の研究室で参考書や論文を読んでいると、先生から怒られたものです。「研究室は勉強する場所じゃない、実験する場所だ」と。それで生協に行って先輩と飯を食いながら、だらだらと話すのがいいんです(笑)。非常に効率が悪いのですよ。寮に帰れば理系も文系もいて、酒を酌み交わしながら「お前はどんな研究をやってるんだ、意味ないだろう」とか言われてね(笑)。勉強は自分の部屋で静かにやるものです。そうやって自分が実力を付けたかどうかが、自分でわかるのです。
中岩:iFrontで、いわゆるダブル・ディグリーのように主専攻と副専攻の教育をしていることは重要なことです。ダブル・ディグリーの基本的な考え方は、2つの分野を見ることで2倍わかることが目的ではなく、異なる世界の存在を理解することで、多様性に対応できるベースをつくることに意義があります。また、生物に例えるならば、変化の激しい環境の中でどの遺伝子がいつ役に立つかわからないからこそ、すぐに発現しない遺伝子を多く保持する生物が生存競争を生き抜いてきました。つまり、今まで経験していないことを経験しようとこだわりを持ちながらやることが大切であって、今までの経験は全く無駄にはなっていないのです。
福田:そう仰っていただけると、大変有り難いです。今まで自分は無駄なことをしてきたと思っていたので。
◆ 自分が決めたことが正解
中鉢:学生の間に得て欲しい資質について、産総研イノベーションスクールで前事務局長を務めた一木正聡さんは、どのよう感じますか?
一木:熱意を持って取り組むことですね。はじめは「大丈夫かな」と心配になるような言葉遣いやレポートの書き方だったスクール生が、企業インターンシップの辺りから見違えるように成長し、企業からも気に入られ、そのまま就職先も決まるような、そんな成長に寄り添えることが育成する側としては楽しいです。
中鉢:私も大学院にいた頃、何となく"大学院の学生"に就職したような気分でした。「次は社会人か、なりたくないな」というモラトリアム意識があったのです。一木さんが例に挙げたスクール生は、私から見ると、とても幼いと感じます。自分の考えを言葉にすらできないドリーマーです。それでも顔つきが変わっていくのは、自分も実社会に関わらなければ大変なことになると、実感としてわかってくるからではないですか。スクール生は依然として研究者志向が強いと思いますが、色々なことを経験する意味では、企業の方が合っている人もいます。自分がどちら向きか、楽観的に考えて判断するのがよいでしょう。環境があなたの進むべき道をつくってくれますから。つまり、自分が決めたことが正解です。決められないのは自分の修行が足りないからであって、相手が悪いなんて思ってはいけないのです。
福田:iFrontの5年間で、決断に悩むことはあっても、結局「えいや」と決めてしまえば、案外できてしまうものだという実感を得ることができました。
中鉢:どっちに決めても大したことがないということが、だんだんわかってくるでしょう。そうじゃないところでこだわって、しがみついているだけです。その握っている手を離した方がリラックできますよ。
高橋:それでは学生から、iFrontでのトレーニングを通じて自分が成長したこと等について、感想をお願いします。
佐々木:私にとっては、知識が増えたことより、考え方が変わったことが大きな収穫でした。iFrontでの様々な経験が、私の人間性に大きな変化をもたらしてくれたと思います。特に先生や先輩方と議論させていただく中で、自然現象から法則を見出し、それを用いて新しいものを創造するという科学・技術のおもしろさがわかったことが一番の収穫でした。海外でも他の文化に触れて、自分の中で噛み砕いて自分自身の法則性を見出していく過程は楽しいですし、自分の性に合っていると感じます。できればこのまま続けていきたいです。
江部:iFrontで先輩方や企業の方々と直にお話したことを通じて、研究者としての将来像を描けていることが、私にとっては一番の収穫でした。
中鉢:すべてを吸収する気持ちで一年一年を大事に取り組めば、圧倒的な経験量になります。それを絶対に止めてはいけないし、ぜひ続けてください。
梅本:グローバルリーダーとは何か、iFrontに入る段階から問われ続け、今日も問われました。その都度、たとえ不完全であっても現時点での自分の経験と知識を駆使して答えを導く過程がよい経験になったと思います。完全な知識や経験にこだわるのではなく、今ある知識や経験で自分なりの答えを出し発信していく積み重ねが重要だと考えるようになりました。
中鉢:でも、現実に妥協してはいけないでしょう。完全を目指す志は若々しくてよいと思うけどな。完全を目指して、どんどん不完全になってくる、そのことがだんだんわかることが大切なプロセスだと私は思いますよ。
後藤:iFrontで米国に留学した時、日本で自分がやってきたことが米国でも通用した上に、米国トップの研究室より優れている点もあったことが、大きな自信となりました。将来の研究像を描く時、その自信が役に立つと思います。
榎本:私はもともと基礎研究を行う研究室に所属していますが、留学先のボルドー大学では、会社との共同研究で最終的なゴールが設定されている中で、自分がその一部を担う体制を経験しました。毎日の議論でその日のうちに研究の方向性が修正されていく過程を経験できたことが、帰国後の研究室生活でも活かされています。また、ボルドーの街中では英語があまり通じなかったため、フランス語で積極的に伝えようと試み、最終的にはある程度通じるようになったことが、私にとっては嬉しい体験でした。さらに、iFrontの学生同士で、与えられた課題に対して全力で議論した経験を通じて、普通にドクターを続けていただけではおそらくできなかったであろうネットワークを築くことができたことも、思わぬ収穫でした。
小松:私も、iFrontを通じて博士号取得を目指す学生たちが研究室の垣根を超えて集まり、iFrontの寮でお酒を飲みながら自分の研究や将来の話をしたこと、おもしろい人たちと出会えたことが、当初は予期していなかった収穫でした。
宮根:iFrontでの経験から「物事はなるようになる」と実感できるようになりました。自分の研究を英語で発表する機会を多く与えられ、最初は日本語でのプレゼンですらままならない状態だったのが、自分の力で何とか乗り越えた経験が、自分の自信につながりました。海外の企業にインターンシップで行く前は、本当に自分一人でやっていけるのか不安で怖かったのですが、日本に帰る頃には帰りたくなくて泣いたほどです(笑)。
◆ 熱意が未来社会を創造する
高橋:今日の議論をまとめます。グローバル人材とは、経験を積み重ねる中で、少しずつ実感するものであり、ひとつのことを究めこだわることが大事という意見が出ました。また、「自分が決めたことが正解」と考えると、我々がiFrontで行っていることは決して間違いではなく、中鉢先生の言葉を借りれば、どんな世界を自分たちが創造したいか、情熱を持って取り組んでいけば、日本を牽引するグローバルリーダーになれるのではないかと思います。最後に、山形大学からiFrontプログラムコーディネーターの飯塚博先生、産総研から中鉢先生、コメントをお願いします。
飯塚:皆さんの議論を伺って、ひとつ思い出したことがありました。本学工学部教職員有志が取り組む子どもむけの移動化学実験教室があります。その教室では、化学の実験を行うだけで、理屈は敢えて教えず、「すごい、なぜ?」と聞く子どもたちに、「なぜだろうね、山形大学に入学してきたら教えてあげる」と答えるそうです。その理屈が頭でわかるという道筋ではなく、「わぁ、おもしろい」と心の方が動き始める。その心を動かすために化学実験教室を行っているわけです。皆さんのお話を聞いて、大学院生になっても、頭よりも心の方が動き出すという経験が想いや熱意となり、個性になっていくのだろうと感じました。ぜひ色々なものに出会った時、頭で考える道筋ではなく気持ちの方で受け止められるといいですね。そのことが個性豊かな人材をつくると思います。
中鉢:客観的に見れば米沢は、色々な意味で、決して恵まれている土地ではないと思います。しかし、その中にあっても何とか成長させようという環境がよいのですよ。「何か満ち足りない」「きっと、どこかに別の世界があるんじゃないか」と感じること、それがエネルギーになるのです。私自身も70年の人生を振り返り、田舎で育ったことがよかったと思っています。都会から見ればハンデですが、その環境でやったことが自分のDNAをつくっているからです。その意味で米沢にはとてもよい目標があるし、すべてが揃っているわけではないけど、それが環境として素晴らしいと思います。iFrontの学生の皆さんはよく育っていると感心しました。
最後に私が体得した法則を3つ挙げます。第一法則、今は続かない。それはまだ何も決まっていないから。第二法則、人生ずっと思うようにはいかない。第三法則、無駄なことは何ひとつない。以上。
学生:本日はありがとうございました。