産総研東北センター創立50周年記念シンポ開催「新技術創出で東北から世界へ」
2017年12月12日公開
産業技術総合研究所東北センター創立50周年記念シンポジウムのようす=TKPガーデンシティ仙台
産業技術総合研究所東北センターは、その前身となる東北工業技術試験所が仙台市苦竹の地に設立されてから今年で満50年を迎えるのを記念して、12月1日、シンポジウムをTKPガーデンシティ仙台で開いた。企業、大学の関係者ら約240人が参加した。中鉢良治産総研理事長は「これからもオール産総研で技術シーズを東北地域の企業へ『橋渡し』し、東北の地域産業の発展に向けた取り組みを進めたい」とあいさつした。
進藤秀夫内閣府大臣官房審議官(科学技術・イノベーション担当)による基調講演
進藤秀夫内閣府大臣官房審議官(科学技術・イノベーション担当)が日本の科学技術政策の動向をテーマに基調講演した。進藤氏は国の施策を紹介した上で、「施策の目的が破壊的なイノベーションにつながっているのか、国際市場を獲得して社会実装できているのか等、本当に成果を出せているのかという視点からの全体見直しが必要という問題意識がある」と語った。
濱川聡産総研化学プロセス研究部門長による講演
続いて、濱川聡産総研化学プロセス研究部門長が「産総研東北センターの研究の歴史と役割」と題して講演。現在の東北センターが看板に掲げる「化学ものづくり」技術が、東北工業技術試験所時代に始まった秋田県北鹿地方の新鉱床「黒鉱」の選鉱自動化から進化した流れと最新の技術事例等を紹介した。濱川氏は「産総研最大のミッションは、研究成果の事業化への『橋渡し』によるイノベーションの創出。東北の地の利を活かした新技術の創出により、東北から世界に向けてイノベーションを推進する」と意気込みを語った。その後、(株)宮城化成の小山昭彦社長が「産総研との連携による新素材EXVIEW(不燃透明プラスチック)の開発」、加美電子工業(株)の早坂宜晃専務取締役が「産学連携による革新的塗装システムの開発と事業化」、新東北化学工業(株)の佐藤徹雄会長が「呼吸性内装材商品化の原点は産総研」と題して、それぞれが産総研との連携の成果を語った。
パネルディスカッション「東北地域産業の発展に向けた産総研への期待」のようす
「東北地域産業の発展に向けた産総研への期待」と題したパネルディスカッションでは、松田宏雄産総研東北センター所長を進行役に、企業経営者や東北経済産業局、東北経済連合会など関係者7人が登壇し、今後の産総研活用の方策について議論した。大崎博之ソニー(株)仙台テクノロジーセンター代表は「大学と異なり学会発表が義務ではない産総研は、機密保持契約を結べば、優秀な人材の揃ったコストの安い、まるで"自社"のような研究所になる」と期待を寄せた。本郷武延(株)アスター社長は「我々ベンチャー企業には"保険"がない。社会的にインパクトのある新事業を創出しても、光が当たらないまま消えてしまった企業も多いのではないか。その点に注力した支援体制が必要だ。東北には自ら表に出たがらない人間が多い」と指摘した。
産総研は、産業技術に関わる日本最大規模の公的研究機関。旧通商産業省工業技術院傘下の研究所が統合・再編されて2001年4月に誕生した。2千を超える研究者を抱え、全国10箇所に研究拠点がある。東北センターでは、「化学ものづくり」を看板に掲げ、環境にやさしく、省エネにつながる高機能な材料や化学プロセスを開発している。
主催者インタビュー
◆東北の発展には"連携できる人"の育成が鍵
/中鉢良治産総研理事長
― 本日のシンポジウムを振り返って、一言お願いします。
色々な面で「東北らしさ」が出たシンポジウムだった。東北人は他の地域と比べておとなしいという指摘もあった。また、全国比で東北地域の総生産等が低い水準にある統計データがあることも考えると、"イノベーションを起こす人"も然ることながら、"連携できる人"の育成が、東北のこれからの発展の鍵になると感じた。
― 『宮城の新聞』読者の中高生へメッセージをお願いします。
引っ込み思案にならず、1mmでも2mmでもより広い視野を志して欲しい。1mmでも自分の活動範囲を広げると、見える景色が変わり展開も変わって、今自分が考えていることとは全く違う世界ができてくる。それは今感じている不安がキャンセルされるほど大きなインパクトを与えると思う。進歩の幅は気にせず、自分を少しでも拡張していくんだという気持ちを捨てずに進んでほしい。
◆ 50年にわたる地域との信頼関係
/松田宏雄産総研東北センター所長
― 本日のシンポジウムを振り返って、一言お願いします。
当所50周年記念シンポジウムに、予想以上に多くの方からご参加いただきありがたい。当所の認知度が低いのではないかと心配していたが、50年にわたり地域の皆様との信頼関係を諸先輩方が築いてきたことを感じた。
― 『宮城の新聞』読者の中高生へメッセージをお願いします。
当所では、夏休みの時期に毎年一般公開を行っている。小学生の参加は多いが、中高生は少ない。夏休みの宿題でも、受験の相談や人生相談でもよいので、仙台市の苦竹にある当所まで気軽にお越しいただきたい。私どももお役に立ちたいと思って、いつでも待っている。