(5)決別と旅立ち
大学院では実験に明け暮れた。ガスタービン羽根の冷却に関する基礎研究だった。研究成果は米国の学会で最高の評価を得、ムーディ賞を受賞した。先生は喜び「大学に残れ。この研究を続けよう」と言った。私は断った。課題の核心部分は解明されており、二番煎じでは心が躍らないから。「好きなことをさせて下さい」と畳み掛けた。間を置いて先生は「何を研究してもよい。ただし国際的に通用する仕事ができなければ、自発的に辞職せよ」と言った。私は直ちにこれを了承し教授室を出た。自由に研究できると思うと心が晴れ晴れした。まもなく私は自分をとりこにする研究課題を探して学問的放浪の旅に出た。勉強一途の旅だった。先生が旅の成果をほめてくれたのは三十八年後だった。先生も今は亡い。
ひのき進学教室特別講師
南部 健一 (東北大学名誉教授、2008年紫綬褒章受章)
南部 健一 (東北大学名誉教授、2008年紫綬褒章受章)
なんぶ・けんいち
1943年金沢市生まれ。工学博士、東北大学名誉教授。百年余学界の難問と言われたボルツマン方程式の解法を1980年、世界で初めて発見。流体工学研究に関する功績が認められ、2008年紫綬褒章受章。
1943年金沢市生まれ。工学博士、東北大学名誉教授。百年余学界の難問と言われたボルツマン方程式の解法を1980年、世界で初めて発見。流体工学研究に関する功績が認められ、2008年紫綬褒章受章。