(11)命の循環
子供の頃、金沢市郊外の村に住んでいた。祖母は日なたで豆がらを叩きながらいろんな話をしてくれた。秋のある日私は大宮川へ魚釣りに出かけた。浮きを眺めていたら上流からトンボが何匹も流れて来た。水面に張り付いたはねは振るえていた。まだ生きているらしい。突然水面でフナが次々に飛び跳ね、我先にとトンボを一飲みにした。祖母にこの光景の意味をを訊ねると、静かに語り始めた。
羽化したトンボの命は一ヶ月あまり。命の終わりにトンボ達は自ら川面に降り、魚のえさとなって一生を終わるのさ。一方、ヤゴは小魚をえさにして育つんだよ。たくさんの動物・植物の命を食物にしている人間は、命を何よりも大切にしなきゃな。お前もどんなに辛いことがあっても生きて行くんだよ。
ひのき進学教室特別講師
南部 健一 (東北大学名誉教授、2008年紫綬褒章受章)
南部 健一 (東北大学名誉教授、2008年紫綬褒章受章)
なんぶ・けんいち
1943年金沢市生まれ。工学博士、東北大学名誉教授。百年余学界の難問と言われたボルツマン方程式の解法を1980年、世界で初めて発見。流体工学研究に関する功績が認められ、2008年紫綬褒章受章。
1943年金沢市生まれ。工学博士、東北大学名誉教授。百年余学界の難問と言われたボルツマン方程式の解法を1980年、世界で初めて発見。流体工学研究に関する功績が認められ、2008年紫綬褒章受章。