取材・写真・文/大草芳江
2014年12月26日公開
■寝かしつけに工学系イクメン的発想
―奥さんや子どもに、普段は言えないけど、言いたい一言はありますか?
森口
子どもに「寝てください」と言いたいです。
奥山
子どもがまだ幼く、夜3時間おきくらいに目を覚ましてしまっていた頃は、車に乗せてドライブに連れて行きました。1時間くらいドライブをしていると、よく眠ってくれますよ。その頃は走行距離が1ヶ月で100kmになりました(笑)。
上田
子どもがパニックになって泣き叫んでいる時も、車に乗せると泣き止みますものね。それを応用した寝かしつけの装置はつくれないのでしょうか。振動の周波数とか測ったら、再現できそうなのに。
住井
青葉山発で、つくったら良いですよね(笑)。それが馬鹿売れしたら、大変な注目度に(笑)。
藤井
私は、子供を抱えて揺らしてさせて寝かしつけましたが、なかなか寝付かないときには40~50分もその運動を続けていました。
奥山
私は、一人目の子どもの時には、寝かしつけるための運動で10kg痩せました。良いシェイプアップになりました。
藤井
うちも、いろいろ試しました。上下方向に揺らした方が、よく寝ますね。揺らす方はしんどいですけど。
大野
うちの子も僕が抱えてスクワットしたら、寝つきがよくて(笑)最適なものがわかるまでは大変ですが、一回わかれば、あとはやるだけなので楽ですよね。
■育児が学生の教育に活かされた
―育児の経験が、例えば研究などの仕事に、活かされたことはありますか?
上田
私自身ではないのですが、旅館経営をしている妻が出産後、子ども連れ向けのプランの必要性を実感して、仕事に活かしています。長座布団が一枚あるだけで便利さがまるで違うとか、子どもの声が周囲の部屋に迷惑にならないか気になるから角部屋の方がいいなとか。
森口
土砂災害を考える時、子どもがいる時に避難をどうするかなど、今まで考えなかったことを考えたりするようになりました。
住井
研究面ではさほど変化はないですが、教育面では変化がありましたね。学生に対して、「まだ子どもだからな」と寛容になりますよね。
藤井
学生に対する接し方が変わって、子どもと接するような感じになりました。「皆さんお名前を呼ばれたら、元気良くお返事してねー」とか(笑)。学生と歳が離れてくると、余計そうなるかもしれません。
伊野
僕も、子どもと接することで教育について考える機会が増えました。なかなか思い通りにならない子どもと接することで、学生に対してもこういう接し方だとモチベーションが上がるだろうか、どういう教え方が学生にはいいだろうかと、以前より考えるようになりました。
大野
子どもが生まれるまでは全くわからなかった親の気持ちが、今はわかるようになりました。新幹線などで知らない子どもが泣き叫んでいたりしたら、昔はうるさいなとイライラしていましたが、今は「元気があってよい子だな(笑)」とストレスを感じなくなりました。学生に対しても以前は「なんでこんなことができないの?!」と感じることもあったのですが、むしろ最近は、「ここに来ている学生たちはいろいろなことを乗り越え、大学受験という関門を突破してきたすごい子たちなんだ」と、学生に対する見方が変わりましたね(笑)。
山川
私も、自分自身が成長したと感じます。学生との研究打合せでもイライラしなくなったり、授業でもこれまでより丁寧に説明するようになったり。視野が広がったと感じます。
奥山
コミュニケーションの取り方が変わりました。丸くなり相手の話を聞くようになりました。子どもとコミュニケーションをとるのは難しいので、それを経てスキルが上がったのかもしれません。学生の意図を汲んだり、些細な変化を感じとったりが、少しはできるようになった気がします。
住井
こうして同世代の方とお話する時、子どもには悪いですけど、子どもをネタにできます。異分野の方でも、共通の話題になりやすい。女性研究者の方ともお話しやすくなりました。
■育児とは日々の喜び
―育児中ならではの喜びはありますか?
奥山
出張から帰ってくると、娘が「パパ!」って迎えに来てくれるのが、嬉しいです(笑)。
伊野
同じです(笑)。うちの娘は以前は「パパよりアンパンマンやしまじろうの方が好き」と言っていたのですが、今は「パパの方が好きよ」と言ってくれるので、良かったなと(笑)。
山川
上の子二人が大きくなり、日々大変だった苦労も、振り返ってみれば良かったと思います。
上田
「なぜ全く泣き止まないのだ?」と大変な時もありますが、振り返れば、良い思い出です。子どもの日々の成長を見て楽しいですし、自分も成長できていると思います。
藤井
子どもに玩具を買ってあげる時、自分自身もかなり楽しいです(笑)。あとは、子どもと一緒に見るようになったアニメや映画も意外と楽しくて、子ども以上に自分が楽しんでいる面もあります。
住井
大変なことも多いですし、家でもイライラして奥さんや子どもと喧嘩になる時もあります。でも仲直りして、奥さんや子どもが手紙を書いてくれたり、子どもがつくってくれた絵本に「おしごとにつかれたときによんでね」と書いてあったりして、本当に嬉しいですね。私自身、出張以外では旅行に行くタイプではありませんでしたが、家族と旅行に行くと、やはり出張とは違って楽しいですね。(笑)。家族がいる嬉しさを感じる瞬間です。
大野
毎日いろいろな発見があり、すごく面白いです。最近僕が一番びっくりしたのが、子どもって、すごいデカイうんちするんだなって(笑)。正直、僕は子どものパンツを交換するのが好きじゃなかったんですが、こんな小さな身体なのにこんなに大きなウンチをするんだと感動して以来、交換するのが楽しくなりました。毎日びっくりすることがあるって、良いですね。この苦労って、楽しいです。
森口
もう皆さん言われた通りです。立った!とか、歩いた!とか、嬉しい喜びや楽しみが毎日ぴょこぴょこある感じです。
■若い世代へのメッセージ
―最後に、読者の中高生も含めて、若い世代へメッセージをお願いします。
奥山
将来結婚して、もし奥さんが専業主婦であれば土日は家事をサポートして、奥さんも働いている場合は家事や育児はフェアに。育児は楽しいですから、ぜひ男性にも体験してもらいたいです。
伊野
子どもって本来、学ぶのがすごく好きで楽しんでいるんです。知らないことを学ぶことって本当は楽しいことなのに、ある時に勉強が辛くなるのは悲しいこと。ぜひ勉強を楽しんでください。
山川
今は退屈な勉強かもしれませんが、それは視野や人生の幅を広げてくれます。少し我慢すると、その先には楽しい世界が待っていますので、そんな目的意識をもって勉強してください。ちなみに、私の所属している地盤工学会が、子ども向けマンガや夏休み子ども実験などをHPに載せています。我々専門家の子ども向けの活動にも注目してもらえると有り難いです。
上田
最近家事をしていて、義務教育で習ったことは、実は生きていく上ですごく役立つと感じます。受験のみにとらわれず、いろいろなことに興味を持って体験し、知識を得ることが、人間力を高める意味でも大切。同じものを見てもより楽しめますので、頑張ってください。
藤井
中高生にとっては受験が大きな目標だと思いますが、その先に就職があり、さらに結婚して子どもを持つことは人生の大きなイベントです。最近は育児両立支援も充実していますし、育児をネガティブにとらえないで。楽しいことが待っていますよ。
住井
僕は料理が全くできないまま、この歳になってしまいました。今さら料理を覚える時間もなくて。特に男子は料理をやる機会が少ないかもしれませんが、料理はやっておいた方が良いと、今のうちにお伝えしたいです(笑)。
大野
あらゆることに好奇心を持ち「知りたい」と思っている人たちが、たまたま何かの専門にはまって研究者になります。子どもも同じです。常にいろいろなことに興味を持つ前向きな姿勢と、それを生み出すためいろいろな人に会いに行く行動力をぜひ養ってください。
森口
人生頑張っていると、何とかなるものです。ですから最初から諦めずに、やりたいことにぜひ挑戦してください。
■ずんだぬきのぶっちゃけ質問
(生々しいことを聞きたい、ブラックなずんだぬきが登場...)
Q.もし次のお子さんが生まれた時、育児休業を取得したいですか?
一同
...どうですかね...。
藤井
僕の場合、講義や会議がある時間は大学に出勤するなど、時間刻みで育休をとりました。
奥山
育休と有休(有給休暇)の違いって、あるのですか?
藤井
僕も事務に聞いたのですが、実はよくわかりませんでした...。それまで有休をほとんど使っていなかったので、育休ではなく有休を使っても大丈夫だったのかも...。
橋爪圭(東北大学男女共同参画推進センター 助手)
育休のメリットは、有休の日数を減らさずに、休暇が取れる点です。また、20日以上の育休を取得すると、育児休業給付金が出ます。しかし実は、女性研究者でも、「大学教員の場合、裁量労働制なので、育休を取るメリットがあまりない」と育休を取得しない先生もいます。男性教員は有休で対応している方が多いようです。
住井
なかなか有休がとれない現状がありましたからね。ものすごく欲を言えば、育休を取れば授業や会議も免除、と制度的に認められたら、すごく大きな意義があると思います。逆に言えば、それがなければ大学教員は裁量労働制のため、育休をとっても・とらなくても、あまり変わらないかもしれないですね。ただしその時、育休を取った人の代わりに講義ができる人がいるかと言うと、そう簡単にはいないのが問題です。
大野
講義もインターネット経由でできれば良いですよね。知人の先生は海外出張が多過ぎて講義がなかなかできなく、違う日に振り替えることもできないときに、出張先の海外からWEBを通じて講義をしていました。その手があったかと、びっくりしました。
住井
望み過ぎかもしれませんが、理想を言えば、学外から非常勤講師をお願いできれば完璧なのですが。全く同じ分野の専門家は二人、同じ学科には普通いないですからね。
上田
私もよくボスに、「大学の研究室は、中小企業みたいなもの。教授とスタッフ数名しかいないところで代替は利かないよね」と言われます。その構造をどうにかしないことには、休みは取れないと思います。とはいっても全く同じ分野の人が他にいても仕方ないのはその通りで、なかなか良いアイディアが浮かばないですね。
Q.今は女性研究者が少ないため、女性向け支援が多いですが、「なぜ女性ばかり、俺達もやっているのに!」とは思いませんか?
大野
逆に女性が大変だと思います。最近、学会等で委員を選ぶ際もメンバーに女性を入れるようになっていますが、工学系に女性が少ないこともあって、明らかにある特定の方に全ての仕事が集中し、相当な苦労をされています。この過渡期においてキーパーソンが少ない今、逆に不幸が起こっている気がしてならないです。男女限らず誰がやっても、僕は良いような気がするんですよね。
森口
僕もそう思います。男女共同参画を履き違えているのかな、って。
住井
今日みたいな座談会とか、皆さんの声が聞けてすごく良いですし、2時間くらいで済むし、ぜひ書類仕事は増やさずに、こういう中身のあることをやると、とても良いと思います。
Q.女子学生から「博士課程に行くと婚期が遅れる」と相談されます。どう答えてあげればいいですか?
大野
全体的に晩婚化しているから、会社に就職した場合とあまり変わらない気がしますけどね。
住井
私の感覚ですと、幸か不幸か、今のところ日本社会はまだ家計の負担は男性メインなので、むしろ男性の方がその問題は大きいのではないでしょうか。博士課程の時は給料が少ない、あるいは(今は少なくなりましたが)0円で、生活が不安定だから、少なくとも助教くらいにならないと結婚できない、というのはよくある話。今どきの理系男性なら、博士課程の女性を敬遠することはないので、あまり心配しなくても良いと思うのですけど。
Q.「結婚なんてするもんじゃない」と、ささやく人もいます。結婚・家族って、良いものですか?
森口
時々、瞬間的に腹立つこともありますが、トータルで言うと、良いもんだと思います。
住井
生活が健全になりますよね。もし結婚していなかったら、ひょっとしたら私、もう過労死しているかもしれない(笑)。子どもがいるからお迎えの際に幼稚園のママ友とかと会う機会がありますが、そうでもしないと社会との接点もものすごく限られてしまうと思います。結婚しないで一人で生活していたら服のセンスなども気にせず、ボロボロの服を着て一生過ごしていた可能性もあります(笑)。もちろん大変なこともありますし喧嘩もしますが、やはり人間の幅を広げる上で、ものすごく良いことだと思いますよ。
大野
家族がいる幸せって、意外と経験するまでわからないものですね。僕は独身時代、よく一人で温泉に行っていたのですが、最近たまに一人で温泉に入ると、もう寂しくて、しょうがないです。食事をしても、ちょっと味気ないな、って(笑)。
住井
出張に行って一人で寝ていると、さびしいですね。隣に子どももいなくて、ベットが冷たいんですよ。
一同
そうなんですよね(笑)。
―ありがとうございました。