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惑星を観続ける観測基地、ハワイに完成/東北大学

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惑星を観続ける観測基地、ハワイに完成/東北大学

2014年10月29日公開

飯館観測所(福島県飯舘村)からハレアカラ山頂(米ハワイ州マウイ島)に移設された、東北大学惑星プラズマ・大気研究センターの惑星大気観測専用望遠鏡(口径60cm)

 東北大学惑星プラズマ・大気研究センターの国内唯一の惑星大気観測専用望遠鏡(口径60cm)が米国ハワイ州マウイ島のハレアカラ山頂(標高3,055m)に移設され、試験運用を始めた。世界有数の天体観測適地で、火星の生命活動の痕跡や木星のオーロラなど、惑星をめぐる謎に挑む。<研究者インタビューはこちら

 同センターのターゲットは、惑星と宇宙の境目。この境界領域で、惑星は宇宙と様々なものをやり取りしながら、オーロラなどの複雑で謎に満ちた現象と変動を起こすことが、明らかになってきた。

 この惑星と宇宙の境界で生じる宇宙現象に伴って放射される光や電波を捉え分析することで、惑星大気環境の変動を明らかにしようと、同センターは惑星大気観測専用望遠鏡を1999年、飯館観測所(福島県飯舘村)に設置し観測を続けてきた。

 しかし、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故により、観測所周辺の空間放射線量が毎時6.5マイクロシーベルトに達し、長時間滞在での観測が困難になった。代替地を検討した結果、研究仲間のいるハワイ大学の支援を得て、飯舘村からハレアカラ山頂へ望遠鏡を移設した。

 ハレアカラ山頂は、約7割の高い晴天率に恵まれ、観測を邪魔する大気や水蒸気の影響も少ないため、日本国内より好条件で観測できる。隣のハワイ島マウナケア山頂には、国立天文台の巨大望遠鏡「すばる」があるが、世界中の研究者から使用希望が殺到するため、年数回しか使えなかった。自前の望遠鏡移設により、惑星大気環境の理解に必要な時間変動や季節変化などのデータを連続的に取得できるようになる。

望遠鏡移設にあわせて開発された、赤外観測で世界最高分解能を有する分光装置

 移設にあわせ、赤外観測で世界最高分解能を有する分光装置も開発。惑星から放射される赤外線を調べることで、天体の微量な大気を検出し、風速や温度を高精度に計測できるという。装置は望遠鏡に実装され、火星大気からの信号の取得(ファーストライト=初受光)にも成功した。

 移設先のハワイ大学の敷地には、同センターが2006年に既設した口径40cmの望遠鏡もあり、2台体制となる。さらに最先端技術を搭載した惑星・系外惑星専用望遠鏡「PLANETS」(口径1.8m)もハワイ大学などと国際協力で開発を進めており、2016年にはハレアカラ山頂に新たな観測拠点が誕生する。


◆ハレアカラ山頂で開所式

9月にハレアカラ山頂で行われた惑星大気観測専用望遠鏡観測施設開所式のようす

 9月にハレアカラ山頂で行われた惑星大気観測専用望遠鏡観測施設開所式には、東北大学やハワイ大学などから約25人の関係者が出席。現地の司祭によるハワイ伝統のセレモニーが行われ、新しい観測施設の完成を祝った。

 挨拶にたったハワイ大学のギュンター・ヘイシンガー天文学研究施設所長は、「日本の東日本大震災からの復興に貢献しようと、今回の支援に至った。今回の連携はハワイ大学と東北大学の共同プロジェクトにむかう最初のステップ。今後も連携をさらに深めていきたい」と述べた。

 東北大学の早坂忠裕理学研究科長は、ハワイ大学の支援に感謝の意を述べ、「本連携には、震災前からのハワイ大学と本学研究者との長年の共同研究の礎があった。本学総長が推進する国際化の方針にもかなう連携で、特に若手研究者や学生が長期滞在しながら共同研究を行う意義は大きい。今後も研究のみならず教育でも連携を深めたい」と挨拶した。

ハワイ大学マウイ先端技術研究センターで行われた科学協力協定署名式のようす

 続いて、ハワイ大学マウイ先端技術研究センターで科学協力協定署名式が行われ、東北大学とハワイ大学との間で科学協力の促進を図ることを目的とした協定が締結された。

 ハレアカラ山頂に移設した口径60cmの望遠鏡と飯舘村に残した電波望遠鏡は、仙台市の同センターから遠隔操作できるよう改良されている。同センターの坂野井健准教授は「今後も飯舘村との交流を続け、飯舘村に恩返しができるよう、良い研究成果をあげたい」と話している。


関係者インタビュー

◆異なる発想の融合でブレイクスルーを
/理学研究科長の早坂忠裕教授の話

 科学のブレイクスルーには、異なる発想の人たちと一緒に研究することが大切だ。海外には日本とは異なるものの考え方をする人がいたり、異分野の発想を取り入れることもよく行われている。普段とは異なる視点で発想する力を身につける意味でも、今回のような海外長期滞在は若手研究者や学生たちにとって大きな意義があるだろう。今後も研究のみならず教育においても国際協力を深めていきたい。


◆世界トップクラスのサイエンスを目指して
/プロジェクトリーダーの坂野井健准教授の話

 岡野章一先生の努力等々も含め、これまでハワイ大学との長い信頼関係を構築してきたからこそ、ようやく一つの形として60cm望遠鏡移設が結実した。移設までの道のりを考えると感慨深いものがあるが、これは一つのゴールであると同時にスタートでもあるため、気の引き締まる思いだ。これから分析装置を開発し、世界トップクラスのサイエンスができるよう、実績を積んで、次のPLANETS望遠鏡計画にもつなげていきたい。


◆新しい現象を観るために、やるべきことをやるだけ
/60cm望遠鏡移設に大きく貢献した鍵谷将人助教の話

 (60cm望遠鏡の移設作業は、木材切りから鉄筋組立、ペンキ塗りや棚作りまで、鍵谷助教自身が中心となって行ったが)良い観測データを得るために、自分はやるべきことをやっただけ。予算も限られる中、かつ自分たちで全体像を把握するためにも、各種手続きや許可なども自分たちで行った。ハワイ現地の工事の会社と一緒に仕事をして、日本の業者とは異なる対応に戸惑いもあったが、海外で仕事をする意味でも大きな経験となった。
 今回移設した望遠鏡は口径60cmと比較的小さいが、非常にユニークな分析装置と、ハレアカラ山頂での連続観測によって、まだ誰も観たことのない新しい現象を観たい。木星や水星などの惑星周りの環境がどのような時間的変化をするか、過去の火星はどんな環境だったのか、地球はどれくらい普遍的なのか。そして太陽系の次は、系外惑星を理解したい。


◆赤外観測で世界最高分解能を目指す
/分析装置を開発しファーストライトに成功した中川広務助教の話

 分析装置と望遠鏡が無事動いたことを確認できたことは、大変嬉しかった。東北大学がこの分析装置の開発を始めて26年という長い年月が経ったが、ハレアカラ移設に伴って惑星観測が初めて成就したことは感慨深い。
 しかし一方で、天候的なタイミングの問題で、火星の水の痕跡や惑星大気の高度分布がわかるくらいの質の高いデータはまだ取得できていない。これから本格運用に向けて準備を進め、日本初の最高分解能である100万に達する赤外スペクトルを達成し、皆様にお披露目できるような成果をあげられるよう頑張りたい。
 分析装置の完成までには、いろいろな人たちの助けがあった。特にドイツの大学で働いていた恩人には組立を助けてもらった。また、ハワイ大学の先生方にも親切にしてもらい、積極的に議論できたのも、とても嬉しかった。何より楽しそうに研究している海外の研究者と一緒に研究することは、自分にとって良い刺激となっている。


◆着想から26年、ハレアカラ山頂に念願の惑星観測基地が完成
/岡野章一名誉教授(前・惑星プラズマ・大気研究センター長)の話

 やっとここまで来たなぁ。いろいろなことがつながって今日に至った。約30年前に東京大学天文台の方から「ハレアカラは観測に最高だよ」と聞いて、1988年に初めてハレアカラを訪れて以来、「ここで惑星を観測したい」と思っていた。約15年前、本学の地球科学専攻に惑星プラズマ・大気研究センターが新設され、やっと地球だけでなく惑星を研究対象にできるようになった。しかし日本国内の天候は観測に適さない日が多く、晴天率の高いハレアカラ山頂にあるハワイ大学の観測所に装置を担いで通った。何とかもっと恒久的な観測施設を持ちたいと思い、ハワイ大学のジェフリー・クーン教授にお願いして、口径40cm望遠鏡を設置できたのが、2006年のこと。ただ赤外観測は使用できなかったため、もっと良い観測をしたいと思った。そこで、「飯舘村の60cm望遠鏡を移設させてもらえないか」とクーン教授に相談したところ、「それよりも惑星観測に適したもっと良い望遠鏡をハレアカラ山頂に一緒に建設しよう」となり、PLANETS望遠鏡計画がスタートした。
 そして2011年の東日本大震災によって飯舘村で観測できなくなってしまった60cm望遠鏡を、再びハワイ大学に相談して受入を認めてもらった。こうして最初の着想から約26年、ハレアカラ山頂に日本の観測基地ができたわけである。60cm望遠鏡は、特に鏡が良くて、良い像が見える。この鏡はコメット(彗星)ハンターで世界的に有名なアマチュア天文愛好家の方に磨いていただいた。
 これから新しいプロジェクト(PLANETS)も頑張らないとなぁ。最終目標は地球外生命体を世界中の誰よりも最初に見つけること。PLANETSで地球外生命体を見つけられる、こともないこともない、と言われている(笑)。つまり、最終目標に向かって努力する、ということ。PLANETSが完成してはじめて、本当の意味でのリタイアになると思っている。あとは、若い人たちが新しい観測施設をフルに使って、惑星の世界を解き明かしてくれることが、今の私の願いだ。


◆歴史的に評価されるのは、これから出す結果
/惑星大気物理学分野の笠羽康正教授の話

 私の専門は人工衛星・惑星探査機だが、同時に、惑星探査機では得られない、地上望遠鏡の複雑な観測装置を使ったデータを取得したいという欲求がある。ところが日本は晴天率が低く、いざというタイミングでうまくデータがとれないため、晴天率の高い場所で観測したかった。日本でその位置にある望遠鏡はハワイ島マウナケア山頂にある「すばる」のみ。ただ、口径8mもある立派な望遠鏡のため、全国の研究者から様々な対象を観測するために使用希望が殺到し、我々は年2、3日しか使用できなかった。しかしながら惑星には、地球と同様に、季節変化もあれば日や時間の変化もあり、太陽活動に対応する変化もある。そのため、なるべく長期間一つの天体に望遠鏡を向け、僕らの太陽系惑星をじっくり丁寧に、地球と比べられるくらい深く調べたいと、日本の研究者は欲していた。
 そのような意味で、東北大学に赴任して8年目にして、僕らが立ちたかった入口に今回ようやく立てた。これから我々が国内外の様々なグループと共同で打ち上げる様々な惑星探査機や望遠鏡衛星と、ハレアカラの望遠鏡との共同観測ができるようになり、やっと、必要な時に必要なデータが取得できるようになる。私だけでなく共同研究をしている国内外の研究者たちも関心を持っており、ここにいない多くの人たちがデータを待っている。
 今回のハレアカラ観測施設開所は、過去に岡野先生が中心となってつくったいろいろな広がりのゴールでもあるし、これから未来へつながる広がりの出発点でもある。その意味では、我々にとってはまだ何も始まっていない。鍵谷君の建設・大工仕事をはじめとして大変な苦労で望遠鏡が移設されたが、歴史的に評価されるのは、当然、これから出す結果だから。最終的にその価値を決めるのは、今回ここに来れなかった人間、ないしは、これからこの分野に入ってくる若い学生たち。若い世代が情熱を受け継ぎ、拡大して、国際的にも意味がある良い仕事ができるよう、僕ら世代も頑張らなければいけない。


◆学生の研究と教育に大きく貢献
/惑星プラズマ・大気研究センター長の小原隆博教授の話

 大学の本来業務である学生の長期的な研究と教育に、今回のハレアカラ観測施設開所は大きく貢献できるだろう。これから海外観測の安全管理体制を整備すると同時に、仙台からハレアカラ山頂の望遠鏡を遠隔操作して観測を制御できるシステムを開発することで、より多くの学生が観測に参加できるよう環境を整えたい。また、飯館村とも相談しながら、飯館観測所の電波望遠鏡の高性能化を同時に進めている。すでに世界一の分解能を有する電波望遠鏡となり、これから仙台から遠隔操作で制御できるようにする。(ハレアカラの)光学望遠鏡と(飯舘村の)電波望遠鏡の両面で、センターとして非常に有意義な第一歩を踏み出した。
 太陽系惑星は、地球と同じように生まれた兄弟のような惑星だが、その運命はずいぶん異なる。その違いに私たちは興味があり、なぜだろうと考えてしまう。時を同じくして、地球の環境変化や温暖化といった問題を考えるヒントとしても、惑星の気候変動が解決の糸口を与えてくれるだろう。これらを明らかにするために、宇宙では実験ができないため、観測を通じて、規則的・原理的なことを推測していく。その精度は情報が集まれば集まるほど上がる。人工衛星から観る惑星と地上から観る惑星では得られる情報の種類が異なるため、センターでは惑星本来の姿を探るべく両面からアプローチする。その回答は永遠にわからないが、限りなく真実に近づいていくということだろう。そんな研究手法のため、逆に言えば、世代を超えて継続的に研究しなければ、真理に到達しない分野とも言える。
 なぜだろう?と考えられることは、幸せなこと。そんな世界があると気づき、足を踏み入れた先には、強い競争原理が働く世界が待っている。その時に必要なのものは、2つ。一つは自分の「居場所」を持つこと。もう一つは「心の支え棒」。居場所とは研究テーマ。支え棒とは研究室の研究力で、しっかりした研究設備と充実したスタッフを持つことだ。その支えの一つが今回のような観測設備を持つことであり、その支えによって、学生たちも安心して研究テーマを選べるだろう。そのような研究ファシリティ(設備)の整備に、センターとして引き続き、力を注いでいきたい。


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