なぜ寒い冬や暑い夏に?天文台で海洋物理学者が講演
2013年5月8日公開
20日に行われた「おもしろサイエンス講演会」のようす=仙台市天文台(仙台市青葉区)
仙台市天文台で20日、地球環境について考える日「アースデイ」(4月22日)にちなんだ講演会が行われ、エルニーニョ現象などの研究で知られる海洋物理学者の花輪公雄さん(東北大学理事)が、「寒い冬や暑い夏にどうしてなるの?」と題して講演した。
講演会では、台長の土佐誠さんが「地球という星で何が起こっているか、ぜひ考えてみて」と挨拶。続いて花輪さんが「天候や気候を左右する大きな要因の一つは、実は、海の状態の変化なのです」と話し、赤道域の海の温度の変化(エルニーニョ/ラニーニャ)が、遠く離れた日本の天候や気候にどう影響するかについて解説した。
エルニーニョ/ラニーニャとは、太平洋西部の赤道域の暖水が移動する現象である。暖水が十分に西側に寄っている状態がラニーニャで、本来は冷たいはずの東部に暖水が移動した状態がエルニーニョだ。エルニーニョとラニーニャは、おおむね数年おきに繰り返し発生することが知られている。
大気は気体であり、海は液体であるため、すぐに変わってしまう大気に比べて、海の状態はめったに変わらない。しかし、いったん変われば、大気と海は相互に作用し合い、気候にも大きな影響を与えるという。
テレコネクション・パターンとエルニーニョの関係について説明する花輪さん
海は大気の1000倍もの熱量を蓄えており、エルニーニョは、大気を温める熱源の移動とみなすことができる。赤道域での局所的な暖水の移動は、上空で高気圧と低気圧が波のように連なる大規模な大気のパターン「テレコネクション・パターン※」を発生させ、世界中の天候や気候に大きな影響を及ぼすことが説明された。
テレコネクション・パターンの出現により、日本付近上空が高気圧性循環に覆われるか、低気圧性循環に覆われるかが変わり、暑い夏になったり、寒い冬になったりするという。しかし、テレコネクション・パターンは、十数例発見されているものの、どの条件下で発生しているかは、まだ解明されていない。
講演では、エルニーニョやラニーニャの発生を監視している国際計画についても紹介された。最後に花輪さんは「冬や夏の天候を変調させているのは、エルニーニョやラニーニャなどの海の現象。海を知らずして、天候や気候は語れない」とまとめた。
※ テレコネクション(teleconnection):遠く離れた地点の天候が同期して変動している現象を指す。テレは「遠く離れた」という接頭語、コネクションとは「結びつき」という意味。遠隔結合、遠隔連結とも訳される。
講演した花輪公雄さんの話
「自然現象の背景におもしろい仕組み/疑問を持って幅広く見て」
花輪公雄さん(東北大学理事)
―改めて、今回の講演で最も伝えたかったことは何ですか?
私たちは大気の中で生きているので、大気が変わっていることは実感できます。では、なぜ大気が変わるのか?その本質を見ていくと、実は、海が非常に大切なことがわかります。海の変動が非常に大きく関与して、天候や気候を変えていることを、伝えたかったのです。
―「寒い冬や暑い夏にどうしてなるの?」と、私も不思議に思っていました。
特に今年は、気象庁が昨年11月、暖冬予測から一転、低温傾向に3ヶ月予報を修正しました。なぜ急に変えたんだろう?と皆さん思ったわけです。長期予報はどの国でもなかなか難しいのですが、ご存知の通り、今年の冬は非常に寒く、気象庁は今回見事にぴったり当ててしまったのです(笑)。その理由は「エルニーニョの終息」と新聞にも書いてありました。そこで今回はそれをネタにしようと思ったのがきっかけです。
―エルニーニョと異常気象の因果関係がよくわからず、とにかく「困ったらエルニーニョ」と言っているんだとさえ思っていたので、今回、海洋と大気の関係について伺えて、よかったです。
テレコネクション・パターンの研究は、エルニーニョの研究とパラレル(並列)で行われています。最初は全くわからなかったのですが、調べていくと、それらが結びついていることがだんだんわかってきました。
今回はお話しませんでしたが、大気の方では「南方振動」といって、太平洋赤道域の西と東で観測される気圧の平年からのずれが、片方で高まればもう片方では低くなるシーソーのような関係で上下する現象を、英国人でインド気象局長官ウォーカーが1930年台に発見しました。南の方の振動なので、南方振動といいます(実は、北方振動もあります)。
そして実は、この南方振動はエルニーニョと同じ現象の大気の部分を見ているとわかったのが、ここ20~30年の動きなのです。つまり、大気と海が、実は一つの現象をつくっていた。そのうち、海だけを見るとエルニーニョだし、大気だけを見ると南方振動なのです。
さらに、テレコネクションという概念が導入されました。例えば、川の下に石ころがあると、こう(川の水が)乗り上げていきますが、それと同じことなんですよ。石ころが下からの熱とすると、あるところでどんどん暖めてやると凸となり、次は凹となって、高いところと低いところができる。これが高気圧と低気圧のつながりになっている、それがテレコネクションです。
ただ、あるテレコネクション・パターンはエルニーニョで励起されることがわかっていますが、他のテレコネクション・パターンについてはエルニーニョと関係がないのもあり、なぜ励起されるかは未だにわかっていないのです。気象の研究者も非常に手こずっていますね。
―「エルニーニョ」という用語はよく聞きますが、大気と海洋の相互作用はとても複雑な現象なのですね。
我々も数年前に、一つひとつのエルニーニョに対して、どんなテレコネクション・パターンが出ているかを調べたのです。海面水温の偏差の分布が違うんじゃない?とか、いろいろな観点で調べたつもりなのですが、もう複雑でね、未だに謎です。1985年頃から現在もなお国際計画で研究していますが、全貌がまだわかっているわけではないのです。
―最後に、身のまわりの自然現象を見る時、どのようなことを心がけるとおもしろいでしょうか。アドバイスをお願いします。
「暖かい」「寒い」だけでなく、「なぜ?」「どうして?」といつも疑問を持ち、幅広くものごとを見ることが大切だと思います。本日の講演でも、日本の天候と、遠く離れた赤道域の現象が絡んでいるお話をしましたが、幅広く見ると、おもしろいと思いますよ。自然で起こっている現象の裏には、非常におもしろい色々な仕組みが隠されています。ぜひ興味を持って見ていただきたいですね。
―花輪さん、ありがとうございました。