取材・写真・文/大草芳江
2013年2月12日公開
「宇宙を見続ける」
新しい観測で、新しい謎を。
小原 隆博 Takahiro Obara
(東北大学惑星プラズマ・大気研究センター センター長)
1957年、岩手県生まれ。1985年、東北大学大学院 理学研究科博士課程終了(理学博士)。1986年、文部 省宇宙科学研究所 助手(東大助手併任)。1997年、郵政省 通信総合研究所 宇宙環境研究室長。2008年、宇宙航空研究開発機構 宇宙環境グループ長。2011年、東北大学 惑星プラズマ・大気研究センター教授。2012年、同センター長、現在に至る。2004年、田中舘賞受賞。国連 宇宙天気専門家会合議長、国際宇宙空間研究委員会 宇宙天気パネル議長、日本地球惑星科学連合理事など、国内外の役職を務める。主な著書に「太陽地球系科学」「宇宙環境科学」「総説宇宙天気」(いずれも共著)、「アシモフの宇宙探検シリーズ(全26巻)」(訳)など。
一般的に「科学」と言うと、「客観的で完成された体系」というイメージが先行しがちである。
しかしながら、それは科学の一部で、全体ではない。科学に関する様々な立場の「人」が
それぞれリアルに感じる科学を聞くことで、そもそも科学とは何かを探るインタビュー特集。
地球を起点に、火星、金星、水星、木星といった太陽系の惑星環境で生じる、
たくさんの不思議な宇宙現象について、光学・電波の最先端技術を用いた地上からの観測、
そして、人工衛星・探査機による直接観測を主な手段として研究を進めている
我が国唯一の惑星観測研究センターが、東北大学惑星プラズマ・大気研究センターだ。
東北大学惑星プラズマ・大気研究センターでは、ハワイ大学との協力により、
福島県相馬郡飯舘村にある東北大学惑星圏飯舘観測所からマウイ島ハレアカラ山頂へ、
望遠鏡(口径60cm)の移設を進めている。
また、ハワイ大学等との国際協力により、高精度な惑星専用望遠鏡「PLANETS」
(口径1.8 m)の建設も進めている。
この新しい望遠鏡の目的や特徴などについて、
2012年4月にセンター長に就任した小原隆博さんに聞いた。
<目次>
・惑星の気象を連続観測するために、自前で望遠鏡をつくる
・火星の気象を調べることで、火星から水が消えた謎を解明
・地球と同サイズなのに全く環境の異なる、金星の大気の謎
・木星オーロラの息づきを連続観測する
・オーロラは生命の存在の証
・月や水星など小天体に希薄大気があることがわかってきた
・弱い光を長時間集めて、太陽系外惑星も発見したい
・制約がある中で最も成果が出るテーマを探し当てる
・世界の惑星探査機と連携し、より大きな科学的成果へ
・地球の過去と未来を教えてくれる
・地球最大の脅威は、宇宙から飛来する巨大隕石
・連続観測によって、巨大隕石や宇宙ゴミから地球を守る
・新しい観測で、新しい謎を見つけたい
・惑星の世界に触れたい好奇心
東北大学惑星プラズマ・大気研究センター長の小原隆博さんに聞く
―ハワイのハレアカラ山頂に新しい望遠鏡をつくる目的は何ですか?
惑星の気象を連続観測するために、自前で望遠鏡をつくる
【図1】ハワイに移設される東北大学惑星圏飯舘観測所の望遠鏡
前センター長の岡野章一教授が2006年、観測条件が世界で最も良いマウイ島ハレアカラ山頂に、ハワイ大学の協力で、望遠鏡をつくったことがそもそものきっかけです。その望遠鏡で見たら惑星がはっきり綺麗に見えると、岡野先生は大変感動されていました。
マウイ島のお隣ハワイ島には、大きくて立派な「すばる望遠鏡」があります。すばるはよく見えるので、絶対に敵わないのですが、立派な望遠鏡なので、世界中の何百人もの人が、すばる望遠鏡での観測を希望します。すると東北大学の先生方は、ほんの一日や半日しか観測できません。
地球にも四季を通じて気象の変化があるように、惑星にも大気の季節変化があります。それをずっと見るためには、一つの望遠鏡で連続的に観測する必要があります。そのようなことをしている国はあまりないため、岡野先生がまず最初に、口径40センチの望遠鏡をハワイに持って行ったわけです。
【図2】東北大学ハワイ1.8m望遠鏡計画「PLANETS」
現在は、福島県相馬郡飯舘村にある東北大学惑星圏飯舘観測所からハレアカラ山頂へ、口径60センチの望遠鏡の移転を進めています。また、1.8メートルの望遠鏡を、ハワイ大学と資金を出し合ってハレアカラ山頂に建設中で、今から3年後に完成予定です。すると、今まで見えなかった宇宙を、しかも連続的に一つの惑星を見続けることができます。
ポイントは、ずっと連続して一つのものを見続けることを可能にするために、自前で望遠鏡をつくることが、アプローチとしては、とてもユニークだと思います。私たちはこの望遠鏡を駆使して、今までわからなかったことを調べようとしています。
―どのようなことを調べようとしているのですか?
火星の気象を調べることで、火星から水が消えた謎を解明
【図3】火星の世界
火星にも、春夏秋冬があります。火星の気候で特徴的なのが、春になると起こる巨大な砂嵐です。ちょうどそれまで地面の下にあった氷が溶けて砂を舞い上げるわけですが、火星探査機の前が見えなくなるくらい大変な砂嵐です。また、火星の北極・南極は「北極冠」「南極冠」と呼ばれますが、その氷が大きくなったり小さくなったりする様子も観測できます。
かつて火星には海があり、川も流れていました。なぜ火星から水が消えたのかは、大きな謎です。おそらく、水と一緒に周りの空気も消えたのでしょう。火星の空気がどんどん外に逃げていく様子も、地球から観測することができます。ところが、火星の空気がいつどこから激しく逃げるのか、まだはっきりわかりません。いろいろな国は、火星の表面探査をしたがりますが、私たちはむしろ火星の気象をよく調べたいと思っています。
火星の気象衛星、あるいは地上から、火星の春夏秋冬を連続的に観測することも、非常に大事です。砂嵐や氷の変化などを連続的に観察することで、なぜ火星から水が消えたのかという謎を明らかにしたい。それが新しい望遠鏡の目的のひとつです。
地球と同サイズなのに全く環境の異なる、金星の大気の謎
【図4】金星の世界
地球のすぐ隣にある金星には、火星と違って雲が沢山あります。金星の大気の主成分は、二酸化炭素です。地球では窒素・二酸化炭素・酸素が主成分ですから、なぜ惑星によって大気の組成が異なるのかも謎です。
金星の大気の主成分である二酸化炭素には、熱を吸収する性質があります。温暖化ガスと言われ、地球でも問題になっていますが、金星の温度は摂氏400度もあります。しかも金星には厚い硫酸の雲があり、硫酸の雨が降ります。非常に恐ろしい環境ですね。
また金星は、非常にゆっくり自転します。1周するのに、地球換算で243日もかかるくらい、ほとんど自転していません。しかも地球とは逆方向に自転しているので、地球とは北と南がひっくり返っているんです。自転の向きが逆なのも謎です。
さらに不思議なことに、金星はほとんど自転していないのに、金星の雲は地球換算でわずか4日間で金星を一周します。このように自転速度を大きく超えて大気が移動する現象は「スーパーローテーション」と呼ばれ、金星の大きな謎の一つです。このような不思議な現象も、連続観測によって、雲の形が時間的に変化する様子からわかっていくでしょう。
ところで、不思議ですよね。金星も地球もほぼ同じサイズの惑星です。太陽と地球の距離を100とすると、金星は地球よりほんの30%だけ太陽に近いだけ、熱量としても約2倍程度を太陽から受け取ります。それなのに、片方(地球)は生命の星、もう片方は、ほんの少し太陽に近いだけで、随分と環境が違うものですね。
木星オーロラの息づきを連続観測する
【図5】衛星イオ火山と木星
ハレアカラの望遠鏡で、木星も観測できます。地球も大きな磁石ですが、木星はさらに巨大な磁石です。惑星の周りには「磁気圏」と呼ばれる磁気に支配された空間があります。地球にも磁気圏がありますが、木星の磁気圏は太陽よりも大きいのです。地球や木星の磁力線が、宇宙空間に向かってどんどん伸びています。
磁気圏そのものは、見ようと思っても、なかなか見れませんが、いくつかのヒントがあります。木星の磁気圏の中にある衛星です。木星はたくさんの衛星を持ち、その一つに「イオ」があります。イオには火山があります。
木星は大変大きな惑星で、イオは木星の周りを少しひしゃげて回っています。するとイオは、木星に近づいたり離れたりするので、木星の引力の影響で、外から形が変化されるような力を受けます。そのため常に衛星の中が溶けた状態になり、火山がたくさんできることがわかってきました。
【図6】衛星イオの火山ガスが木星の回りに分布
話はここからで、イオの火山が、周りに向かって、たくさんの火山ガスを吹き上げます。すると、そのガスが木星にすーっと綺麗な一本の筋を引くように、オーロラをつくるのです。衛星がオーロラをつくる姿は木星で初めて観測されたわけですが、そのような現象も、ハレアカラの望遠鏡で連続的に観測することができます。
木星には、もう一つのオーロラがあります。はっきりとした、大きなオーロラで、これは「太陽風」によってつくられています。太陽の周りにはコロナがあり、コロナのガスが周りに向かって超音速で吹き出していることが、今から約50年前に初めて観測されました。これを太陽風と呼びます。
太陽風には電気を帯びた粒子が含まれており、そのほとんどは、プラスの電気を持った陽子と、マイナスの電気を持った電子です。陽子と電子が太陽から超音速で惑星間空間に飛び出してくる影響を受けて、磁石の隙間から惑星に向かって太陽風の電子が流れこみ、それがオーロラをつくります。
【図7】木星の極域に現れたオーロラ
ですから、磁石のある地球にもオーロラがあります。木星にもオーロラがありますが、木星は磁気圏が非常に巨大ですから、太陽風がつくる木星のオーロラはそれは見事です。このような現象も、ハレアカラの望遠鏡から連続的に見ることができます。
オーロラの研究はもう100年以上続いており、地球でもいろいろなことがわかってきました。今では地球のオーロラ予報も可能です。しかし木星のオーロラ研究は、なかなか遠くにあるし、あまりはっきりと見えないので、これまで限られていました。
「ボイジャー」や「ガリレオ」などの木星探査機によって木星も調べられてきましたが、探査機もずっと行けるわけではないため、研究できるチャンスは限られていました。ハレアカラの新しい望遠鏡では、連続的にオーロラが光ったり・静かになったりと、まさにオーロラの息づきが手に取るようにわかるのです。
オーロラは生命の存在の証
【図8】オーロラ
オーロラは、土星にもあります。その先にある天王星や海王星でも、オーロラは光っていると思います。ただ、地球から遠いためになかなか見つけられず、今度のハレアカラの望遠鏡でも、せいぜい土星止まりでしょう。
なぜオーロラは光るかと言えば、惑星の大気が、宇宙から磁石の隙間を通って入った粒子と衝突して光るわけですが、出す光の色が、空気の種類によって異なるのです。
地球オーロラの場合、もちろん窒素もオーロラの光を出しますが、酸素が色を出します。木星オーロラの場合は、酸素がないため、地球とは異なる色になります。土星もいろいろな色のオーロラを出します。
けれども、いろいろ探してみると、木星にも土星にも酸素はありません。酸素があるのは、やはり地球だけです。酸素がないということは、残念ながら、生命が存在しないということです。
太陽系外の惑星も含めて、いろいろな惑星に磁石があれば、大抵オーロラが光ります。ですからオーロラの色を調べることが、酸素を見つける手がかりになるのです。つまり、オーロラは、宇宙の生命にも関わってくるのですね。
月や水星など小天体に希薄大気があることがわかってきた
【図9】水星大気の流出(東北大学のハワイ観測結果)
水星は、太陽に近いため、日出直前あるいは日没直後といった、ほんの僅かの時間しか観測できません。なかなか連続して観測するチャンスは少ないですが、今回のハレアカラの望遠鏡では、水星をはっきりと見ることができます。
水星はお月様ほど小さな天体なので、まわりにガスはないだろうと思われていました。水星は体が小さくて、磁石もないし、太陽に近いから、空気はどんどん吹き流されていて、水星の周りで溜まることができなかったのでしょうね。
しかしこれまでの観測から、水星にも薄い空気があるらしいとわかってきました。そして空気の量は、どうやら太陽の活動に関係あるらしいと、少しずつわかってきたのです。
当センター准教授の坂野井健先生らは、私たちのお月様を見て、薄いけれども、大気があることを見つけました。太陽風が直接、月の表面に衝突して、月の地面の中にあるものを外に飛び出させ、それで月の周りが大変薄い空気に囲まれている様子が、わかってきています。
弱い光を長時間集めて、太陽系外惑星も発見したい
【図10】太陽系外惑星(想像図)
惑星の周りの空気の様子や、その中で海ができたり・海が消えたり、オーロラが光ったり・消えたりは、一つの惑星の中で起こっていることです。けれども、読者の皆さんからすれば、「どうして太陽系が生まれたのだろう?」「どうして地球が生まれたのだろう?」を考える方が、もっとわくわくする、大きな謎のような気がしませんか?実はそれを今、主題にすることができるようになりました。
なぜかと言うと、大きな望遠鏡は、私たちの太陽系の外にある惑星(系外惑星)まで見ることができます。あるいは、今生まれようとする、新しい他の太陽系を観測することもできます。
私たちの太陽系の誕生は、今から約80億年前。太陽が生まれる前にあった太陽が爆発を起こし、いろいろなガスを撒き散らして、その後に周り全体がガスになります。それが今度は、中に一つの大きな固まりができて、最初は大変大きな円盤になります。
不思議なことに、最初はガスの板だったものが、時間が経つと薄い円盤になって、ぐるぐる回り始めます。すると中心部が光り出し、もう少し経つと、ガスに濃淡ができ、たくさんの輪になっていきます。今度は、1つずつの輪があるところに、物質が集まってくるのです。
そして、一つの輪のところにあった物質を全部かき集めたもので、「原始惑星」ができます。ぼんやりしたガスが集まるを繰り返しながら、惑星は生まれるのです。
その姿を見れるのですよ、望遠鏡で。それを一番はっきり見えるのは、すばる望遠鏡です。すばる望遠鏡で、原始太陽系が生まれる、つまり他所の太陽系が生まれる姿が、たくさん観測されています。
ただし、すばる望遠鏡は、太陽系や系外惑星を探すだけでなく、他にもいろいろ、遠くの銀河やブラックホール、あるいは爆発する星なども調べることができるので、太陽系や系外惑星だけの研究に専有できません。
そこで、「太陽系の外にある惑星も発見しよう」というチャレンジをするためにも、長時間ずっと見続けることで、弱いかすかな光を、たくさん蓄積する必要があるのです。小さくとも長時間観測すれば、はっきりとした映像になります。そんなことを根気強くやっていきたいと考えています。
すると、やはり新しく見つかった惑星に、酸素があるかどうかが気になりますね。そこで、先述のオーロラ探しが始まるわけです。今は光で見ることで、惑星の存在だけでなく、惑星中にどんな物質があるか、酸素があるか、ハレアカラの観測でもわかるでしょう。
私たちの太陽系は今しかないので、昔や未来はわかりません。けれども、他所にある年齢の違ったいろいろな太陽系を見ることで、太陽系が生まれてくる時間や、生まれてから死ぬまでの道筋など、宇宙の進化がわかります。そのためには、ずっと長い時間、微弱な弱い光を貯めこむことが、手法として大事になってくるわけです。
―小中規模の望遠鏡で連続観測するアプローチを、他の人がやらなかった理由は何ですか?
また、センター全体のテーマからは、今回の新望遠鏡をどのように位置づけていますか?
制約がある中で最も成果が出るテーマを探し当てる
まずは「大きな望遠鏡をつくって、遠くをはっきり見よう」と、すばる望遠鏡などの大型望遠鏡がつくられました。一方、小中規模な望遠鏡で、宇宙を連続観測するアプローチは、これからの新しいトレンドになると思います。
研究グループが、それぞれのモチベーションをもって研究を進める場合は、どうしても自前の観測装置があった方が良いですから。これから口径2メートルくらいの望遠鏡は、世界で建設ラッシュになると思います。その先陣を切りたいですね。
わりと少人数で可能なプロジェクトでもあります。当センターの中で、どんな研究テーマを選ぼうかという時、ネックになるのは、大学の研究規模です。2つの研究室を合わせて数人のグループですから、研究グループとしては小さいと思います。
当センターでは少数精鋭とPRしておりますが(笑)、少数で大きなことはできません。しかも、大学ですから、JAXAのように大きな資金もありません。ロケットや国際宇宙ステーションも、なかなか使えません。
数人で力をあわせ、約1億円と資金が限られる中、つくった望遠鏡で何が見えるかと言えば、どうしても惑星の周りしか見えないのです。惑星の固体表面や凸凹は見たいけれども、残念ながら見れない。すると、どうしても研究テーマが、大気環境になるのです。
ですから、むしろ現実は逆でして。すごく立派な考えがあって、当センターとして、このテーマを選んだと言えば格好良いですが、資金とマンパワーが限られる中、最も成果が出るようなテーマを探し当てるのが、現実のお話です。
世界の惑星探査機と連携し、より大きな科学的成果へ
もしJAXAや宇宙飛行士なら、もっと大きな夢を語るでしょう。例えば「人類が宇宙で家を作って住むんだ」など。そのためには大変大きな資金を要するので、一大学の一研究センターには、なかなか手が届きません。
そこで、私たちは宇宙機関と連携して研究しています。これが第三の展開です。今、世界の探査機は、木星や金星、火星にむかっています。それを協同で観測するのです。
人工衛星探査機は、どうしても飛びながらの観測ですから、一箇所のデータは非常によくわかる反面、裏側のデータの状況は、よくわかりません。裏側に行くと、今度は表の状況がわかりません。一周しなければわからないけれども、一周する中で、いろいろな物事は変化してしまいます。
ですから、人工衛星から観測している人は、半分くらいしか、わからないわけです。それを他の誰かがずっと脇で冷静で見てくれると、「今、人工衛星の見たところは、こんな大きな変化のこの部分だな」とわかります。
つまり、地上からの望遠鏡観測の大きなメリットは、実際に惑星探査機が観測しているデータを、より意味あるものにできること。それが、ずっと見続けることの意味です。
日本でも、JAXAがこれから水星探査機を飛ばします。将来はヨーロッパと協力して、木星に探査機を送ろうという計画もあります。次のチャンスを狙って、金星探査機「あかつき」も観測を始めます。いろいろな世界の惑星探査機と、地球からの望遠鏡観測がうまく連携することで、より大きな科学的成果につながります。
つまり、メインプレイヤーではありませんが、十分に脇役にはなり得ます。いろいろ異なった観測装置手法を持ち込み、総合的に、地球だけでなく惑星の環境を調べることが大事になってくるでしょう。
地球の過去と未来を教えてくれる
ここで得られた知識は、これまでの地球の歴史だけでなく、これからの地球の将来の環境について、大きな情報を与えてくれます。
例えば、過去に厳しい環境変化が、火星では非常に短い時間で起こっています。つい30年くらい前まで、火星全体は、今の火星の温度より数度くらい低かったのです。
地球温暖化は100年で3度と言われますが、火星はもっと短いタイムスケールで数度以上も気温変化してしまう。そのしくみをよく調べれば、温暖化の正体がわかってきます。
余談ですが、地球も過去に3回ほど地球全体がカチンコチンに凍った時期があり、「スノーボールアース」と呼ばれています。スノーボールになった後、地球は温暖化や寒冷化が進み、約十数度の気温変化がありました。
十数度の気温変化を、過去の地球は何度も経験しています。赤道の領域に氷があった証拠など、いろいろな化石や地層を調べてわかるのです。グリーンランドも12世紀頃まで、木が生い茂り、緑の土地でした。一方、現在のグリーンランドはカチンコチン。アイスランドは比較的温暖ですが、昔は寒かったのでしょう。
地球最大の脅威は、宇宙から飛来する巨大隕石
【図11】恐竜の見た巨大隕石(福武書店)
話はそれますが、何といっても宇宙で怖いのは、隕石衝突です。巨大隕石が地球にぶつかれば、あっという間に地球は破滅します。これまでも、地球に巨大隕石がぶつかったことはあります。火星程の大きさの天体がぶつかってきて、何ができたかと言えば、月ができたのです。
月の誕生は諸説あります。巨大隕石がぶつかって、地球の地面を剥ぎ取り、地球の周りに大きなリングができて、それが今度はまた集まって月になったという説。ちょうど太陽の周りに惑星ができたような、ミニ太陽系ですね。この過程を追うと、小さな石の塊がどのように集まって、一つの天体、この場合は月になったかがわかります。
実は、ハレアカラの望遠鏡では、地球に向かってくる小惑星も観測することができます。今から百数十年先に、大きな小惑星が、限りなく地球に近づき、ぶつかる可能性があります。そのサイズは約30キロメートルです。
恐竜が絶滅した時に衝突した隕石のサイズは、約10~15キロメートル。これくらいで恐竜は死ぬんです。この隕石は何処に落ちたかというと、南アフリカのユカタン半島です。
隕石衝突後、大気中に隕石の出した物質が、広がります。隕石に多く含まれて、地表にはほとんど存在しないイリジウムという物質が、いろいろなところで堆積していきます。ですから地層を見て、恐竜絶滅の時期と、どんな環境変化があったかわかります。
10キロメートルくらいの隕石で、クレーターの半径は約100キロメートル、マグニチュード11、津波300メートルが発生。津波は内陸の大部分に入り、地上の生物を一掃します。空は、煙で舞い上がった塵が太陽の光を遮ります。恐竜は変温動物ですから、自分で体温コントロールができず死んでしまう。
その時に、足元でちょこちょこ動いていたネズミは恒温動物だったので、生き残るわけですね。約6500万年前の話です。それが我々人類の祖先です。恐竜が死んでくれたおかげで、進化できました。
連続観測によって、巨大隕石や宇宙ゴミから地球を守る
【図12】小惑星帯の場所
そういうわけで心配しているのは、火星と木星の間に位置する「小惑星帯」と呼ばれる、惑星になり切れなかった一帯です。すぐ外にまず木星ができてしまったせいで、木星はなかなか引力が大きいので、その内側の小さな粒々は集まることができず、今もなお小惑星として、残っています。
その一つの小惑星「イトカワ」に、先日、小惑星探査機「はやぶさ」が到達し、中村智樹先生がイトカワ岩石を分析しました。外側にある小惑星と内側にある小惑星はでき方が違います。今回のはやぶさで内側の小惑星について理解したので、はやぶさ2号機では、外側の小惑星に行こうとしています。
この小惑星帯から時々、軌道を弾き飛ばされて地球に落ちてくる、あるいは、太陽の方に入っていくものがあるんです。これは日常茶飯事、地上から観測できています。小惑星帯からやってくるものは、ゆっくりと落ちているので、今から100~200年先の軌道まで計算できます。
ところが最も心配なのは、冥王星の外にある「カイパーベルト」と呼ばれる彗星の巣です。有名なハレー彗星が生まれた場所ですね。そこで時々、軌道が不安定になり、彗星が太陽の方に落ちてきます。すると遠い太陽系から急に来るので、あっという間に、3年くらいで、やって来るのです。
その間は、ずっと毎日見ていなければ、軌道決定ができません。ですから一番怖いのは、ハレー彗星のように、遠いところにあるカイパーベルトからやってくる彗星が、地球にぶつかることなのです。
岡山にある「スペースガード協会」は、遠くから来る巨大隕石をずっと観測しています。それをJAXAが支援しています。その理由は、宇宙ステーションに巨大隕石が飛び込まれたら困るからです。
地球には空気があるため、多少のものは途中で燃え尽きます。なかなか大きなものでなければ、地上にクレーターはつくりません。金星や火星も空気があるため、宇宙からやってくる巨大隕石は途中で燃え尽きます。一方、水星や月には空気がないため、途中で燃え尽きず、どんどん落ちます。
【図13】解析によってわかった隕石落下痕
クレーターの形を調べて、過去どんな隕石が太陽系の中で浮遊しているかを調べる研究もできます。月周回衛星「かぐや」は、月全体の地図をつくりました。その結果を分析すると、太陽系の中で昔、どの程度のアステロイド(彗星や隕石)があったかもわかるのです。
やはり地球最大の脅威は、遠くからやって来る巨大隕石です。また、死んだ宇宙衛星などの宇宙ゴミ(スペースデブリ)も、落ちると大きな被害になります。数年前私がJAXAにいた時も、スペースデブリは大問題で、皆で一生懸命頑張りました。昔の衛星は、原子炉を積んでいたのです。たとえ今は停止していても、核燃料を積んでいるので、落ちたら大問題です。
新しい望遠鏡で、毎日ずっと同じ方向を撮り続けることで、巨大隕石やスペースデブリをいち早く見つけて、地球を守る。新しい望遠鏡の使い方で、スペースガード協会に少し貢献できたら良いですね。
新しい観測で、新しい謎を見つけたい
話を元に戻しますと、衛星も含め、惑星には非常に奇妙な現象がたくさんあります。ガリレオが望遠鏡で観測してから400年。木星の雲は帯状で、猛烈な強風が吹いていますが、その中にある台風は300年くらい生きています。地球の台風はせいぜい1週間で消えますが、木星の台風は動こうとせず、強風が吹いているのです。
木星の帯の構造も、金星のスーパーローテーションも皆、大気の循環です。そんな惑星の特別な気象現象も、ゆくゆくは大気の研究センターですから、新しい謎を見つけたいですね。新しい謎が、新しい観測から出てきたら、それは私たち研究者にとって大きな喜びです。
赤道の方は暖められ、北極の方は空気が冷えていきます。赤道の熱エネルギーを北極の方に持って行こうとして、大気が大きな循環、つまり対流を起こすわけです。
その時間変化をずっと遠くから広い領域で観測すると、どこで空気が下から湧き上がり、どこで空気が下の大気に沈んでいくか、その運動がわかります。そんな大気の大循環を通じて、その惑星固有の気象学を学べます。
惑星も衛星も太陽系も、いろいろな謎がまだまだたくさんあります。私たちは、その中のできる部分を拾い上げて、いろいろ調べている状況と捉えています。だからこそ「宇宙を見続ける」ことが大事だと考えているのです。
惑星の世界に触れたい好奇心
いつも人から「それが面白いのですね。好き好きですね」と言われるのですが、本当に好きなのですよ、不思議と(笑)。そういうことを考えると、わくわくするし、誰も見たことのないことを自分たちが初めて見た時が、とても嬉しいのです。
学生の皆さんも喜んで、いろいろな観測装置を一緒につくって、それを世界のいろいろなところに持って行き、皆、楽しそうに研究して卒業していきます。
研究テーマも学生さん一人ずつで決めます。卒業論文などは小さなテーマかも知れませんが、一つのことを発見し、その中身がわかり、結果を論文としてまとめ、世の中に公表することは、達成感・満足感につながります。そのような経験が、社会に出た後、いろいろな仕事に就く時も、一つひとつを完結していける力となるでしょう。
いろいろお話しましたが、結局は「不思議だな」と思う好奇心、この惑星の世界に触れたいと思う好奇心なのです。では、それをどうやったら身近に触れられるかを考えた時、それが望遠鏡だった。それが本当のところではないでしょうか。
―小原さん、本日はありがとうございました。