学校教育実践の研究発表会、小中学生の自由研究も
2013年1月6日公開
学校現場における取組みの発表を通して教育課題の解決に役立てようと、第38回仙台市教育課題研究発表会が26日、仙台市教育センターや東二番丁小学校を会場に開催された。教科内外における実践や学校経営、防災教育など、様々なテーマの分科会が設けられ、教職員らが日頃の実践の成果を発表した。また、今年初の試みとして、児童生徒による夏休みの自由研究の成果発表会もあった。
今年度導入「たくましく生きる力育成プログラム」実践発表
【写真】仙台市教育課題研究発表会のようす=26日、仙台市教育センター(仙台市宮城野区)
このうち、今年度から市立小中学校で導入された「たくましく生きる力育成プログラム」の分科会では5校から実践報告があった。本プログラムは、変化の激しい社会をたくましく生き抜く上で必要な「知恵や態度」を義務教育で養おうと、市教育委が09年度から経営者や学識経験者などと開発を進めたもの。
昨年度からモデル校として本プログラムを導入中の吉成小学校は、「近年、児童の学力は高いが、学習が受け身で失敗を恐れる傾向があり、心の乱れが著しい。表面上のコミュニケーションスキルでは補えない、根源的な人間形成に取組む必要がある」と導入の背景を説明。あたたかく関わり合える子どもを育成しようと、本プログラムを活用した。
同小では、各学級の児童にどんな力が不足しているかを検討後、年間授業計画を作成。人間関係や自己理解・他者理解などを学ぶ授業を年間4回実施した結果、「自分の気持ちを伝えられて気持ちがすっきりした」「普段の言い方を改めた」など児童たちの自己肯定感や人間関係に変化が見られたという。
一方、教師が授業のねらいを強く意識しなければ、「楽しかった」だけで学びなく終わる恐れも課題として指摘された。会場からは「本プログラム導入の具体的なイメージができた」という声があったほか、本プログラムを学校全体として共有化・系統化する手立てなどに関心が集まっていた。
吉成小の研究主任を務めた長島多香教諭は「学年と児童の実態に合わせ、教師自身が実践しながら、プログラムを工夫し続ける姿勢が大切。今回、何よりの成果は、教師自身がそれを意識して取組めたことだ」と話していた。
◇「たくましく生きる力育成」に取組む理由――吉成小学校教諭の長島多香さんの話
長島多香さん(吉成小学校教諭)
あたたかくかかわり合える力は、どんな学力にもまして、人としての財産であり、生きる力になる。一方、今の子どもたちは、勉強はできるが、人間関係で小さなトラブルが多く見られる。そんな子どもたちを変えたい気持ちが先生たちに共通してあり、皆で一生懸命取組む力になっている。私たち教師は社会や家庭の領域には入れないが、「たくましく生きる力育成プログラム」は、学校で行える教育を実現化するための手立てになると思う。
◇「たくましく生きる力育成」に取組む理由――吉成小学校校長の菊地博さんの話
菊地博さん(吉成小学校校長)
「たくましく生きる力育成プログラム」導入の理由は複数ある。1点目は子どもの実態。今まで3年間かけて、コミュニケーション能力を向上させる学び合いの授業研究を進めてきた。ところが高学年になるにつれ、自分の考えを表現できなかったり、友達とかかわり合いができない様子が見られた。その根底には、人間関係の弱さ、自己肯定感がもてない実態が潜んでいることを学校全体で共有した。
そんな中、たまたま昨年度は中島先生が本プログラムを試行実施し、4回目の授業で子どもたちの本音が出てきた。その変化を見て、子どもたちが本音を出せる関係づくり、異なる考え方や価値観を持ちつつ他人との違いも認められる人間形成の必要性を感じ、本プログラムが一つの突破口になると考えた。
2点目は、本校は小中連携指定校であり、小中連携の柱となる共通部分が仙台市では「自分づくり教育」のため、その中でコアとなる本プログラムが良いと考えた。3点目は、新しく来た若手の力が伸び、ベテランも挑戦できる、一緒に取組める新しい何かで、かつ負担にならないものが欲しいと考えていた。
とはいえ、一番のきっかけは、昨年度に中島先生が本プログラムを実践したことと、本プログラム開発に携わった菅原教頭先生が理論的な裏付けを持っている安心感が大きい。条件の良さもあったと思う。
もともと私は中学校で生徒指導をしていたので、本プログラムの必要性を感じるし、実践によって先生方の負担感や苦労も減ると思う。その状態で中学校にお渡ししたいし、中学校でも効果があると思うので、ぜひ実践してもらいたい。
子どもたちが夏休み自由研究の成果をプレゼン
【写真】「仙台市児童・生徒理科作品展」で優秀な成績を収めた児童生徒による発表のようす=東二番丁小学校(仙台市青葉区)
このほか今年初の試みとして、「仙台市児童・生徒理科作品展」で優秀な成績を収めた児童生徒の発表の場も設けられた。雲と天気の関係を観測的に調べた研究や、10円玉と1円玉でボルタ電池を作る研究など、児童生徒らはパワーポイントやデモストレーションで工夫しながら研究成果を発表していた。
このうち、「魚の心臓の大きさは、生活の仕方でどのようなちがいが出るか」をテーマに研究した瀬田陸斗君(荒町小学校5年生)は、魚の体重に対する心臓の割合は、体の大きさに関係するのか、それとも生活の仕方に関連するのか確かめたいと思い、様々な魚を解剖し、体と心臓の重さを測って調べた。
その結果、魚の体重に対する心臓の割合は、生活の仕方に関連していたことを、グラフでわかりやすく示しながら解説。瀬田君は「じっとしている魚に比べて、いつも泳いでいる魚は、魚の体重に占める心房の割合が5倍もあったので驚いた。心臓が大きいからたくさん泳げたのか、その逆かがわからないので、次は調べたい」と好奇心をふくらませていた。
◇自由研究発表会を企画した理由――仙台市科学館館長の石井鉄雄さんの話
石井鉄雄さん(仙台市科学館館長)
自ら疑問を持ち解決できる素晴らしい子どもたちだと感心した。優秀な研究の発表の場を用意することで、受賞した子どもの励みになると同時に、全体の底上げにつながると考えている。科学の芽は疑問に思うこと。失敗して次を考えるプロセスをどんどん身につけてもらいたい。
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