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【レポート】東北大学未来科学技術共同研究センター創立20周年記念講演会/江刺正喜さん(東北大学名誉教授)記念講演「MEMSの実用化研究」

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【レポート】東北大学未来科学技術共同研究センター創立20周年記念講演会/江刺正喜さん(東北大学名誉教授)記念講演「MEMSの実用化研究」 取材・文/大草芳江

2020年6月3日公開

東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)の創立20周年記念式典・記念講演会が2018年10月26日、東北大学百周年記念会館川内萩ホール(仙台市)で開かれた。本稿では、スマートフォンのジャイロセンサやプロジェクターの光制御デバイスなどに利用されているMEMS(微小電気機械システム)研究で紫綬褒章等を受賞している江刺正喜さん(東北大学名誉教授)による記念講演「MEMSの実用化研究」をレポートする。

<関連記事>
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※ レポートに掲載されている所属・役職は、2018年の講演会当時のものです。
※ 本取材をもとに、東北大学未来科学技術共同研究センター創立20周年記念誌の編集を請け負いました。

【記念講演1】
「MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の実用化研究」
江刺 正喜
(東北大学名誉教授、マイクロシステム融合研究開発センター 教授)

 ご紹介いただきました江刺と申します。私はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の研究を行って参りました。

 こちらは私の経歴ですが、1971年に東北大学工学部を卒業し、学部・大学院とも松尾正之先生のもとで研究しました。西澤潤一先生の研究室にも出向しておりました。NICHeには1998年から2004年までお世話になりました。今から5年前に工学研究科を定年退職し、最終講義は「設備共用へのこだわり」というタイトルにしました。スライドの緑文字は共用施設関係のものです。我々のようにものづくりをやっている者にとってはインフラが大事でございまして、それを共用することにこだわって参りました。

 1971年から、私は半導体イオンセンサ(ISFET)の研究開発を始めました。このセンサはMOSトランジスタのゲート絶縁膜を電解液に浸し、液中のイオン濃度を測るものです。これを実用化するために、0.5mm幅のプローブの形に加工し、直径1mmのカテーテルの先に取り付けるようにしました。当時は、西澤先生のところをモデルにして手づくりで設備を整えました。ドクターやマスターの時は、あまり論文を書かないで、設備づくりばかりやっておりました。半導体イオンセンサは10年がかりでやっと薬事法の認可を取りまして(1980年)、日本光電工業から製品化され、一番使われたのが逆流性食道炎の診断です。これが2017年に「でんきの礎」という電気学会の技術遺産として顕彰されました。

 助教授になった時にコンピュータの研究室に移り、「LSIをつくれ」と言われて、先程の設備を使ってLSIをつくりました。例えば、レイアウトエディタをFortranで自作してプログラミングを習ったり、LSIテスタなども自分でつくってデジタル回路技術を習得したりと、機会をつかまえて勉強して参りました。

 LSIをつくる時も、プリンターでプリントアウトして自作の縮小カメラで撮り、拡大してチェックし、縮小し並べてフォトマスクをつくりました。それで当時、LSI設計の教科書(「半導体集積回路設計の基礎」)も書きました。また、学生の方がLSIをつくるマニュアル(「やさしいLSIの作り方」)をつくってくれ、それを直して代々引き継ぎ、学生たちが使ってきました。

 その後、これらの技術を使いまして、集積化容量型圧力センサの研究開発を行いました。このセンサは、圧力による微小な容量変化を回路で検出するものです。豊田工機(現JTEKT)で生産され、例えば、エアコンフィルタの目詰まり検知などに使われました。ここで大事なのは、ウェハの状態で蓋をして分割すると入れ物に入って気密封止された状態になるという技術でございます。このウェハレベルパッケージング技術の実現により、コストが80%程ダウンできました。この技術を使いましてアドバンテストに技術移転したものが、LSIテスタ用のMEMSスイッチでございます。これをつくるために仙台市愛子に工場が建てられました。

 これはトキメック(現東京計器)でつくった静電浮上回転ジャイロです。直径1.5ミリメートルのシリコンの輪が、高速デジタル制御で浮いて毎分7.4万回転し、3軸の加速度と2軸の回転を高精度に検出することができます。東京の地下鉄で「モーションロガー」として使われており、地下鉄の走行中に動きのデータを全部取得して、夜間の保線工事で線路を直す時などに使われています。

 これは日本信号がつくった、2軸の光スキャナです。パルスレーザを照射し、光が行って戻ってくるまでの時間を計測することで、距離がわかる3次元距離画像センサです。このセンサは、東京の山手線のプラットフォームドアに付いており、安全監視に使われております。また、自動運転車の目の役割を果たすセンサ(LIDAR)にも使われようとしています。

 最近の仕事は、LSIとMEMSを融合させる技術です。これまでのやり方ですと、LSIの上にMEMSを形成しようとすると、温度が上がってしまうためにつくることができませんでした。そこで別の基板の上にMEMSをつくっておき、それをLSIの上に転写し、先程のウェハレベルパッケージング技術で蓋をしてやって参りました。その応用例として、情報通信機構や村田製作所などと一緒につくったのが、災害などでも途切れない通信システムです。

 このための色々な部品を選択的な転写技術でつくっています。例えば、ガラスの上に表面弾性波(SAW)共振子というものをつくっておいてLSIの上に転写するのですが、ガラスの裏側からレーザで剥ぎ取って、チップ上に複数の異なる周波数のフィルタを裏返しでつけています。普通、SAW共振子はLSIの外側に置いてありますが、このような方法によって、チャンネル数を増やしても小さくできるわけですね。さらに、同じように転写する技術を使いまして、可変周波数帯域SAWフィルタもつくりました。

 人とぶつかっても安全なロボットをつくろうと思いまして、2本の線の間にたくさんの触覚センサをつけて、ぶつかればわかるようにしました。しかし、一つずつ選ぶので、実はリアルタイムではないのです。なぜこうなったかと言いますと、我々の研究室ではチップ内に最大1,000個のトランジスタしかつくれませんでした。一方1990年頃、当時の企業ではチップ内に100万個もつくっていましたので、集積度が1,000倍も違いました。現在は企業がチップ内に100億個もつくるので、1,000万倍も違います。ですから我々は、LSIづくりをギブアップしました。複雑なものをつくることに転換しまして、トヨタ自動車やリコーなどの会社と共同で外注し乗り合いLSIウェハをつくり、以下のようなシステムをつくっています。

 こちらは、トヨタ自動車などと一緒に開発している安全なロボットのためのものです。介護用ロボットをつくるために、体表面に触覚センサをつけて、触るとリアルタイムに検知できるイベントドリブン式です。そのために、インターネットと同じようなパケット通信システムをロボットの体表面に形成し、45MHzの高速で動作させています。

 また、超並列電子線描画装置も開発しました。アクティブマトリックス電子源アレイの後ろにLSIをつけて、1万本の電子ビームで直接描画するという装置です。東京農工大学などと共同で、ナノクリスタルシリコン(nc-Si)電子源を使って低電圧で電子を放出できるようにしました。今年6月には「超並列電子ビーム描画装置の開発-集積回路のディジタルファブリケーションを目指して-」という本も出版しました。

 我々は、私が学生時代に手づくりした試作設備をずっと使ってきました。単純な装置ですから、あまり壊れないので誰でも使え、色々な研究室で共同利用ができます。これまで通算130社以上の会社の人たちが約2年駐在して全体の工程を経験し、会社に戻って製品化に関わりました。民間との共同研究で駐在していた会社として、例えば、ベンツ、フォード、トヨタ、日産、ホンダなどがあります。競争相手同士が一緒に、お互いに情報交換して上手にやってきました。

 こちらは、トヨタ自動車の例です。トヨタは1992年~1995年まで2人駐在しており、戻って開発したものがトヨタの工場で生産され、100万台以上の車に載せられています。開発したものは車両の安定制御システムのセンサで、例えばカーブの時にスピンや横滑りしないようにコントロールするものです。

 私は今、仙台市の青葉台にある西澤潤一記念研究センターにおります。東北大学元総長の西澤先生が約半世紀、財団法人を設立して半導体研究を支援してきた施設です。ここには大きなクリーンルームがあり、トーキンなどの会社が工場の設備をここに移転してくれました。ここに会社の人が来て、自分で試作することをやっています。西澤先生のところにいた職員が設備を維持し、使い方を教えるというわけです。普通は半導体の設備なんて、素人が使うものではないですね。でも、ここでは素人が使っても大丈夫です。そうすると人も育つ、というわけです。

 この試作コインランドリの運営は、戸津准教授が担当しております。東北大学の理事にも動いていただいて、2013年7月からは、ここでつくったものを販売してもよいことにしていただきました。試作コインランドリは、毎月約500人の方が利用しておりまして、今まで約250社の企業が来ました。試作コインランドリの運転費は約2億円ですが、このうち7割を利用料の売上で賄っています。ここで支援して製品化された例として、浜松ホトニクスが開発したパルス量子カスケードレーザなどがあります。

 インフラも大切ですが情報が大事なものですから、2005年に藤井元仙台市長にドイツのフラウンホーファ研究機構に行って交流協定を結んでいただきました。2012年からフラウンホーファ研究機構と東北大学のプロジェクトセンターが発足し、フランフォーファ研究機構から2名が東北大学に駐在して、室温で金属接合する技術などを研究しています。フランフォーファ研究機構は、日本で言えば産業技術総合研究所のような機関ですが、各大学に分散して大学と協力し合っています。年間予算の約4割は企業からの委託研究ですので、インセンティブが働き、企業からの情報も入ります。なぜフラウンホーファ研究機構かと言うと、そのようなやり方を参考にしたいというわけです。

 また、ベルギーにある半導体で有名なIMEC(Interuniversity Microelectronics Centre)という研究所から「アジアの戦略的パートナーになってくれ」と言われました。なぜ我々かと言うと、IMECは設備が立派過ぎて、なかなか自由が効かないけど、東北大学は自由度が高いのでちょうどよい、というわけです。

 私は今、西澤潤一研究記念センター内に展示室をつくって、その整備もやっております。この他、一社あたり年間5万円の会費で約70社が加盟している「MEMSパークコンソーシアム」をつくり、その主催で3日間のセミナーや、年1回の少し大きなフォーラムを毎年無料で開催しています。また、泉区にMEMSコアという開発請負の会社があります。ここの設備も古い装置をもらってきたものです。また、愛子にあるアドバンテストコンポーネントでは生産請負もしています。

 我々MEMSの置かれている状況ですが、日本の会社はうまくいっている外国の会社をM&Aで買収したりして、頑張っています。できれば国内の技術で日本の会社に元気にやってもらいたいと思っていまして、もう少し我々大学が頑張らないといけないかなと思っています。できるだけ組織間の壁を低くし、集団で力を発揮することが大事だと考えてやっております。

 最後になりますが、このようなスタッフに恵まれてやって参りました。ご清聴どうもありがとうございました。


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