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東北大学環境・地球科学国際共同大学院プログラム修了生インタビューVol.1:高野智也さん(フランス グルノーブル・アルプ大学)

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東北大学国際共同大学院修了生インタビューVol.1:高野智也さん(仏グルノーブル・アルプ大学)
取材・写真・文/大草芳江

2020年04月24日公開

まさか今、自分が海外で研究しているとは、
学生時代、夢にも思っていなかった。

高野 智也 Tomoya TAKANO
(日本学術振興会特別研究員PD(東京大学地震研究所))

 2012年3月 東北大学理学部宇宙地球物理学科卒、2014年3月 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士前期課程修了、2014年4月民間企業に入社、2015年9月 同退社、2016年 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程再入学、2018年4月グルノーブル・アルプス大学Visiting Student (同年10月まで)、2019年3月 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程修了。2019年4月日本学術振興会特別研究員PDとして、東京大学地震研究所に所属、2019年5月から2020年2月まで、日本学術振興会の海外渡航制度を利用してフランスのグルノーブル・アルプ大学に滞在。2018年度東北大学総長賞。

【東北大学環境・地球科学国際共同大学院プログラム ×「宮城の新聞」コラボレーション企画】

 日本学術振興会特別研究員PDとして、フランスのグルノーブル・アルプ大学で地震学の研究を行っている高野智也さんを訪問しました。高野さんは東北大学大学院修士課程を修了後、企業に就職しましたが、退社して同大大学院博士課程に進学し、東北大学環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)※の第一期生として、グルノーブル・アルプ大学と東北大学の共同学位である「ジョイントリー・スーパーバイズド・ディグリー」を取得しています。現在は海外で研究者としてご活躍中の高野さんですが、学生時代は自分の将来をどのように描いていたのでしょうか。また、GP-EESでの経験は現在の高野さんとどのようにつながっているのでしょうか。グルノーブル・アルプ大学で高野さんに聞きました(2020年2月に取材しました)。

※ 東北大学 環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)は、東北大学が海外有力大学との強い連携のもとに国際共同教育を行い、世界を牽引する高度な人材を育成する「国際共同大学院プログラム」群を構成するプログラムのひとつです。詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。

【関連記事】
◆ 東北大学 環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)プログラム長の須賀利雄さん(東北大学教授)に聞く:GP-EESが目指すもの
◆ 【学生座談会】東北大学 環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)に参加して ◆ 東北大学環境・地球科学国際共同大学院プログラム修了生インタビューVol.2:相澤紗絵さん(フランス 宇宙物理・惑星学研究所)



◆ 博士課程進学すら考えていなかった

― はじめに自己紹介からお願いします。

 日本学術振興会特別研究員PDとして、東京大学地震研究所に所属しています。日本学術振興会の海外渡航制度を利用して、フランスのグルノーブル・アルプ大学に2019年5月から2020年3月までの10ヶ月間、滞在しています。

― 研究内容の概要を教えてください。

 地球物理学の地震学分野の研究ですが、地震そのものではなく、海洋波浪や人間活動等によって発生する地震波ノイズを利用して、地殻構造の時間変化を調べる研究を行っています。東北大学大学院在学中は、火山性圧力源による火山体構造の時間変化や、地球潮汐による地殻構造の時間変化を、地震波ノイズを用いて調べていました。

― 学部生の頃は、どのような学生でしたか?

 学部生の頃は、部活に明け暮れる毎日で、勉強は疎かでした(笑)。特にやりたいことも決まっていなかったので、まさか自分が博士課程へ進学するなんてことは全く考えていませんでした。ましてや今、ポスドクとして海外で研究しているなんてことは、全く予想していなかったです。


◆ 「地震波ノイズ」という言葉に惹かれて

― まだやりたいことが決まっていなかった状況から、どのような展開があったのですか?

 学部3年生の後期に配属希望の研究室を提出する際、まだやりたいことが決まっていなかったので、どうしようかと考えながら、研究室紹介一覧を眺めていました。すると、西村太志教授(固体地球物理学講座)の研究室の学生による論文タイトル「ノイズ相互相関関数と波動伝播特性に関する基礎的な理論と数値実験」が目に留まりました。

 「地震学なのに、なぜノイズなのだろう?ノイズでも何かがわかるのか。おもしろそうだ」と思い、研究内容というよりも、言葉に惹かれて、希望調査票に西村研究室と書きました。メジャーなものより、ニッチなものが好きなんです(笑)。

― はじめに言葉に惹かれて、実際に研究を始めてみて如何でしたか?

 学部3年生が調べることなので、たかが知れていますが、楽しかったです。地震波ノイズが何によって発生しているか、またノイズを使って、例えば、地下構造の時間変化を調べたり、地下構造のイメージングができたりと、色々なことができることがわかり、調べれば調べるほどおもしろかったです。


◆ 自分に自信がなかった

― 大学院進学については、当時どのように考えていましたか?

 恥ずかしい話ですけど、あまり深く考えていませんでした。周りの皆が修士課程に進学するから自分も進学するものだと思い、大学院に進学しました。4年生の後期に自分のテーマを設けて研究するのですが、地震波ノイズの研究について良い結果が得られなかったので、大学院でそのまま続けて研究しようと思いました。

― 修士に進学してからは、博士課程への進学については、どのように考えていましたか?

 博士課程への進学も考えておらず、修士1年生の冬には就職活動を行っていました。その頃は特に良い成果が出せず、研究を続けられる自信がなかったので、就職しようと考えていました。研究そのものは楽しかったのですが、僕は学部の頃の成績も全く良くなくて、とにかく自分に自信がなかったです。今もそんなにありませんが(笑)。

 けれども、内定が出た後の修士2年生の夏頃に研究の結果がようやく出て、冬頃に論文としてまとめ始めることができました。その論文は就職後に、無事に受理されました。


◆ 就職して初めて気づいたこと

― 就職先はどのように決めたのですか?

 地震学の専門知識を直接活かせる会社は限られています。地球物理学とは直接関係はないのですが、防災分野にも携わっている情報機器メーカーに就職しました。けれども、その1年半後に退職してしまいました。

― なぜ会社を辞めたのですか?

 やっていて本当に楽しい仕事か、疑問に思ったからです。研究室にいた時よりも企業に勤めていた頃の方がストレスに感じることが多かったと思います。これまでの自分の経歴で打ち込めるものは何だろうと考えた時、研究室に戻ることが頭に浮かびました。

 一方で、就職後に査読者とやり取りをして論文が出版される過程で、やっぱり研究がいいなと思いました。企業では決められた期限内に成果を出すためのスキルなどを学べましたが、自分が本当に打ち込めるものは研究だと、就職してから気がつきました。


◆ 背水の陣で研究室に戻る

― 会社を辞めてから、どうされたのですか?

 何の保証も保険もキャリアパスのプランもなかったです。博士課程に戻ったらアカデミアに就職できるかもわからないですからね。そこは、持ち前の楽観主義で、あまり深くは気にしませんでした。

 そのまま同じ研究室に博士課程で戻りたいと、西村先生にメールで相談しました。西村先生は東京駅で会ってくださり、「ぜひ一緒にやりましょう」と心優しく受け入れてくださいました。「ぜひ」と本当に言ってくれたかは、もしかすると良いように脳が記憶を修正しているかもしれませんが(笑)、そう言ってもらえて嬉しかったです。

― 大学に戻った時の研究に対する思いは?

 モチベーションはすごく高かったですね。今さら企業に戻るのも難しいだろうと。ですから、気持ち的には「研究をやって早く成果を出そう」という感じでした。


◆ 専門分野のみに固執せずオープンに

― 高野さんが大学に戻ったタイミングで、GP-EESが始まりました。最初の印象は?

 博士1年生の後期からGP-EESが始まりました。最初に魅力に思ったことは、本心を言えば、給料をいただける点でした。当時はあまり海外渡航のことは考えていませんでした。

 GP-EESのプログラムは僕にとっては結構大変でした(笑)。博士課程では、通常授業はあまりないのですが、GP-EESは取得が必要な単位が多い上、敢えて専門外の馴染みのない分野を受講しなければいけません。当時はついていくのがやっとでした。

 けれども後になって、あの時、専門分野以外のことを色々と学べた経験は良かったと思っています。自分の専門分野だけに固執せず、オープンになったと思います。研究所内でのセミナーなどにも、分野に関わらず積極的に参加するようになりました。

― 「最初は海外留学をあまり考えていなかった」とのことですが、心境の変化はあったのでしょうか?

 在学中、海外でのワークショップや学会等への参加を通じて、留学したい気持ち自体が増えていきました。GP-EESからの支援で海外渡航ができたので、とても助かりました。博士2年生の冬にグルノーブル・アルプ大学を訪れ、学振(日本学術振興会特別研究員DC2)を取っていたためダブル・ディグリーは無理でしたが、ジョイントリー・スーパーバイズド・ディグリーなら可能、と話がまとまり、博士3年生の春から6ヶ月間、グルノーブル・アルプ大学に留学しました。


◆ メリハリとシェアのフランス文化

― 海外留学は初めてでしたか?

 初めてでしたが、すごく楽しかったです。日本での研究生活との違いや文化の違いも体験できました。

― 特に印象深かったことは何ですか?

 研究以外のことも楽しんでいる人が多かったことです。18時前には皆帰宅し、20時頃には大学も施錠されます。当然、夜に学食は開いていませんし、土日も大学に入れません。その分、皆メリハリがすごいですね。集中する時は集中して、少しコーヒーブレイクしてまた研究に集中して、18時になれば、皆で飲みに行く。だらだらしない印象です。

 24時間空いているコンビニなんてありませんし、スーパーも20時頃には閉まるので、晩御飯を作るなら早く帰る必要があります。皆が早く帰れば早く帰りやすいですよね。僕の生活スタイルも変わりました。

― 他にも、日本との違いを感じたことはありましたか?

 皆、ちょっとわからないことがあると、すぐ周りの人に聞きます。ポスドクが学生に聞いたり、学生がポスドクや先生に聞いたり。もちろん日本にいた時も先生に質問することはありましたが、フランスでは日常的にディスカッションするチーム感と言うか、オープンな雰囲気を感じました。

― 留学を通じて、高野さんの中で変化はありましたか?

 それまでは、できるだけ自分一人で頑張ろうという気持ちが強かったのですが、人の手を積極的に借りよう、シェアしよう、という気持ちに変わりました。フランスでは、競争的な雰囲気がなく、チーム感があるからだと思います。それで生産性がありながらも、皆早く帰っているのではないかと思いますね。

― 留学前後で、特に変わったことは何ですか?

 日本に帰国後も、周りが残っていてもあまり気にせず18時頃には帰るようになりました(笑)。生活スタイルが変わりましたね。


◆ 日本とフランス、研究スタイルの違い

― 研究では、留学先でどのような進展がありましたか?

 フランスのグループが設置した地震観測データを利用してもうひとつ別の研究トピックを立て、留学先の先生と新たに研究を始めました。その研究は約6ヶ月の滞在中にある程度形になり、昨年論文を出版することができました。

 グルノーブル・アルプ大学の僕の指導教員は、毎週ミーティングを開き、必ず週1回ずつ進捗を共有する研究スタイルでした。一方日本では、自分の納得が行く結果が出た時に先生に報告する、自由な研究スタイルでした。

 留学先では、週に1回、たとえ進展がなくても何かしら報告しなければいけないので、熟考して見せに行くことができず、ストレスもありましたが、研究は進むので短期間でも成果が出たのかなと感じています。


◆ 躊躇せずに海外に行けるようになった

― GP-EES履修時代を振り返り、今改めて思うことはありますか?

 あまり躊躇せずに、海外に行けるようになりました。ポスドク先も、国内だけでなく海外も含めて探せるようになりました。GP-EESを通じて留学したり、海外の学会に参加したおかげで、海外へ行くことにそこまで躊躇わなくなったと感じています。

 さらに、留学している時にフランスでの指導教員にポスドクのポストについて相談したら、「新しいプロジェクトが来年から始まるから一緒に研究を続けよう」と言ってもらえました。GP-EESで留学して関係性を築けていなければ、そのような話もできなかったので、現在のポストがあるのもGP-EESのおかげです。

 これがもし1~2週間程度の滞在なら、一緒に研究までできません。6ヶ月間滞在できたことは、信頼関係を築く上でも、とても大きかったと思います。GP-EESをやって、本当によかったと思います。


◆ 自分で将来を決めすぎず、好きなことをやる方がおもしろい

― これまでのお話を踏まえ、後輩へのメッセージをお願いします。

 あまり偉そうなことは言えませんが、自分の未来のことなんて、誰にもわかりません。学部生の頃の僕は、まさか今、自分がフランスで研究しているとは夢にも思っていませんでしたし、普通に就職しているだろうと思っていました。ですから、あまり自分で自分の未来のことを決めすぎない方がよいと思います。

 僕もこの先どうなるかはわかりませんし、何の保証もありませんが、より自分がエキサイティングだと思うことをやる方が、おもしろいと思っています。

― 高野さん、ありがとうございました。

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四方を美しい山に囲まれたグルノーブル・アルプ大学。高野さんが過ごす研究所の周辺にも緑が多い。
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フランス滞在中に、第一子が誕生。苦労はありながらも、フランスは子育てに優しい環境と話す高野さん夫妻。


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