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(12)揺るぎ無い挑戦者魂/連載エッセイ「風に立つ」(南部健一さん)

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連載エッセイ 風に立つ

(12)揺るぎ無い挑戦者魂

 工学系大学院に5年在籍した。前期の2年は実験装置の製作に費やした。ガスタービンは高温の回転翼に細孔を穿ち、これに水を流して冷却する。装置はこれを模したものである。後期課程の3年間は実験に明け暮れた。実験ではH技官の協力を得た。
 ある日実験データが原因不明のバラつきを示した。私とHは次々にアイデアを出し合って原因を探した。しかし何の進展もなく二ヶ月が過ぎた。私は気力が萎えて来た。しかしHはひるまなかった。ある日彼は「装置が目に見えない振動をしているのではないか」と言い出した。半信半疑の私を尻目に、装置のあちこちに木のくさびを打ち込んだ。再実験をして見るとデータのバラつきはピタリと止んだ。Hの背中は、何が私に欠けていたかを、無言で語っていた。

南部 健一  (東北大学名誉教授、2008年紫綬褒章受章)
ひのき進学教室特別講師
南部 健一 (東北大学名誉教授、2008年紫綬褒章受章)
なんぶ・けんいち
1943年金沢市生まれ。工学博士、東北大学名誉教授。百年余学界の難問と言われたボルツマン方程式の解法を1980年、世界で初めて発見。流体工学研究に関する功績が認められ、2008年紫綬褒章受章。

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