産学連携で研究成果を社会へ/東北大学未来科学技術共同研究センター20周年
2018年10月30日公開
東北大学百周年記念会館川内萩ホール(仙台市青葉区)で10月26日に開かれた、東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)の創立20周年記念式典・記念講演会のようす
東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)の創立20周年記念式典が10月26日、仙台市青葉区の東北大学百周年記念会館川内萩ホールで開かれ、大学関係者をはじめ、企業や行政、研究機関などから多くの参加者が集まり、20周年の節目を祝った。
NICHeは、大学の知的資源をもとに、社会の要請に応える新技術製品の実用化と新産業創出を目指し、産業界など外部との連携により、先端的かつ独創的な開発研究を行うことを目的として平成10年4月に設立された。設立から20年間で約520億円の外部資金を獲得し、合計75のプロジェクトを実施、NICHeから35社のベンチャー企業が立ち上がった。
記念式典で式辞を述べるNICHeの長谷川史彦センター長
記念式典で式辞に立ったNICHeの長谷川史彦センター長は20年の歩みを振り返り、「大学の研究成果を市民の皆様にさらにわかり易く説明するために、開発した要素技術をもとに自らベンチャー起業を積極的に行い、着実に育成する新たなシステムづくりに挑戦したい。東北地域から生まれる新たなライフスタイルを産業界とともに世界に向けて提案していきたい」と意気込みを語った。
記念式典で挨拶を述べる東北大学の大野英男総長
次に東北大学の大野英男総長は「産学連携の拠点として学術成果を実用化する革新的なミッションに取り組んできたNICHeが、これからも、課題先進地域である東北に新しい未来を紡ぎ出す活動をし、我が国の産業競争力に大きく貢献することを期待している」と挨拶。続けて、文部科学省の松尾泰樹 科学技術・学術政策局長、経済産業省の福島洋 技術総括・保安審議官、東北経済連合会の海輪誠会長が祝辞を述べた。
江刺正喜東北大学名誉教授(マイクロシステム融合研究開発センター教授)による記念講演「MEMSの実用化研究」
記念式典の後は記念講演会が行われ、スマートフォンのジャイロセンサやプロジェクターの光制御デバイスなどに利用されているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の研究で紫綬褒章などを受賞している江刺正喜東北大学名誉教授(マイクロシステム融合研究開発センター教授)と、世界中の液晶ディスプレイの発展に多大な貢献と産業界への先端技術普及および育成に尽力してきた内田龍男東北大学名誉教授(株式会社インテリジェント・コスモス研究機構 代表取締役社長)が記念講演を行った。
内田龍男東北大学名誉教授(株式会社インテリジェント・コスモス研究機構 代表取締役社長)による記念講演「未踏の分野に挑戦した歴史と経験」
江刺名誉教授は「MEMSの実用化研究」と題した講演でこれまでの研究を振り返り、「ものづくりにはインフラが不可欠で、設備の共有化にこだわってきた。組織間の壁を低くし集団で力を発揮することが大事」と語った。次に内田名誉教授は「未踏の分野に挑戦した歴史と経験」と題した講演で、液晶ディスプレイの黎明期に研究を開始し、有機物でしかも液体という電子工学材料としては未踏の分野に挑戦し、高性能カラー液晶ディスプレイなどの実現に尽力してきた経緯と人材育成の取組みなどについて講演。「ICT社会の構築においてディスプレイは最重要キーデバイスのひとつ。まだまだ発展の余地は大きく、情報システムの進化を担う要素技術の進化と連携が重要だ」と今後の展望を語った。
産業技術総合研究所の中鉢良治理事長による招待講演「豊かな社会とは?-科学技術の視点から-」
続いてNICHeで現在進行している18のプロジェクトが紹介された後、産業技術総合研究所の中鉢良治理事長による招待講演があった。中鉢理事長は「豊かな社会とは?-科学技術の視点から-」と題した講演で、「未来のものづくりにおいては、社会的価値と経済的価値を両立する心の琴線に触れる価値こそが新しい価値ではないか。"共通善"の追求こそが、ものづくりの最終的な目標だと思う」と、今後のものづくりの方向性について語った。
インタビュー
-「宮城の新聞」読者の中高生や一般の方にむけて、一言メッセージをお願いします。
◆ 長谷川史彦さん(東北大学未来科学技術共同研究センター センター長)
これからも東北大学のよさを市民の皆様にお伝えしていきたいと思っています。地域の皆様や子どもたちも、ぜひNICHeのある東北大学の青葉山キャンパスに時々遊びに来てください。
◆ 中鉢良治さん(産業技術総合研究所 理事長)
様々なところで産学連携の環境が整いつつあり、その機を捉えて、東北大学をはじめとする様々な大学で産学連携の受け皿をつくっていることはよいことです。産総研も産学連携を推進しているので、ぜひ皆で連携していければと思います。