取材・写真・文/大草芳江
2015年7月28日公開
6月に同大災害科学国際研究所で開催された事前座談会の様子
東北大学工学部オープンキャンパスで女子学生のためのミニフォーラム「工学にかける私の夢」が7月29、30の両日に開かれる。これに先立ち、東北大学工学系女性研究者育成支援推進室( ALicE )副室長の有働恵子准教授と登壇する女子学生5名による事前打合が座談会形式で開催され、東北大学工学部を選んだ理由や学生生活・就職活動、工学部で良かったこと・大変だったことなど、気になる話題がざっくばらんに語られた。
◆東北大学工学部を選んだ理由/ものづくりや工学に憧れ
―東北大工学部を選んだ理由は?
井澤 山形出身。まわりに東北大志望者は多く、高校の時から一つの目標だった。高校の文理選択時、理系から文転は比較的容易と聞き、そのまま理系に。工学部出身の父から工学部の楽しさを聞いており、工学部を志望した。
野村 北海道出身。まわりは北大希望者が多かったが、高校生の時、東北大OBの物理の先生から東北大の良さを聞いて、見学に来た。キャンパスは綺麗で男子学生とも話しやすく、すごくいいと思い、東北大を選んだ。小さな頃から、熱中してものをつくるのが好き。理系科目は得意ではないが、将来仕事をするなら形に残る何かをつくりたいと思い工学部を志望した。
横溝 宮城出身。地元の東北大に憧れていた。工学部を選んだ理由は、東北大学工学部OBである父の影響。小さな頃からものづくりが好きで、父と一緒に色々なものをつくった。ものづくりをしたくて、工学部を志望した。
青木 新潟出身。自分が勉強した知識でつくったものが、世に出て人の役に立つ工学の魅力にひかれ、工学部を選んだ。なかでもマテリアル(材料)は高校では扱わない分野のため、やってみたくなった。材料と言えば、東北大が日本一だと思い、東北大を選んだ。
鈴木 宮城出身。地元の東北大を志望。オープンキャンパスで色々な学部を見て、一番楽しかったのが工学部だった。太陽光発電にも興味があり、工学部を選んだ。
◆工学部のイメージ、良い意味で裏切る
―工学部に入ってイメージ通り?
井澤・青木・鈴木 イメージ通り。
野村・横溝 コミュニケーション下手で奥手な男子ばかりのイメージだったが良い意味で裏切られた。一緒にいて楽しい人達が多い。
―女子が少ない環境は気になる?
全員 あまり気にならない。
井澤 生活のベースとなる友達はサークルや部活の友達だから。
野村 先生から「女子だから」と気を使われると、逆に申し訳ない。
―研究以外の活動はしている?
野村・青木・鈴木 部活を運動系と文化系でかけもち中。
野村 学友会の卓球部に所属。
青木 私は学友会のバスケット部。
鈴木 サークルでバトミントン、自主ゼミで金属材料研究会に所属。自主ゼミの他メンバーは材料系の男子。皆で仲良く工場見学に行く。
野村 バイトは家庭教師。
横溝 試食販売のバイトもやる。
―入学した時と今は同じ気持ち?
鈴木 全然違う。最初は太陽電池に興味があったが、様々な人と出会い、興味が移り変わって、今は別テーマの研究室にいる。興味を持つこと自体は変わらないけど、大学に入ってから、発想の仕方や興味の対象が変わった。
横溝 「化学バイオ」という名前のイメージとは違ったが、楽しい。化学工学の授業で「この知識は、こう役立つ」と教えられて憧れた。
野村 最初は抽象的だった憧れが学ぶうちに具体的になるという、すごく良い変化がある。変わると言えば変わるけど、より固まる方に変わる感じかな。
青木 その場その場で「おもしろそう」と思った方に進む方がいい。
野村 最初に「これだ」と思って、ずっとそのまま行く人の方が少ないと思う。
鈴木 高校生の時は、「こうしなきゃ」と凝り固まっていたけれど、最初から一つに決めようと思わなくてもいいかな。おもしろいことはどんな世界にもある。高校の時は、それまでたまたま触れた情報の中で判断していたけれども、大学入学後に知識を習得する過程で、方向が変わることは当然あるよね。
◆高校と大学の違い
―高校の時から比べて成長した?
青木 高校までは、先生が面倒を見てくれるけど、大学では全て自分たちでやらないといけない点が、高校とは違う。だから大変。
野村 自分で聞かないといけないから聞く力が問われる。高校までは人の言うことを聞いていれば、ゴールが見える。行き詰まった時、人に聞けない人ほど一人で悩んでいる。「こんな簡単なこと、聞いちゃいけないのかな」と。でも、実際に聞いてみたら「実は、俺もそう思っていた」というのが多い。
有働 高校生は敷かれたレールにむけて頑張れば良いが、大学生は自分で決める力を身に付ける必要があり、結果に対する責任も自ら負うことになる。さらに、研究室では、誰も答えを知らないことを研究するから自分で答えを探す力が求められる。それをこなすうちに成長することができて今がある。
◆大学進学の理由
―なぜ就職せずに大学院へ進学?
野村 勉強したいと思って大学に入ったのに、部活ばかりに時間をとられ、ふとまわりを見わたすと、留学したり自分で何かを立ち上げたりする人たちがいる。ちゃんと勉強してから卒業したかったから。
横溝 最初は就活を考えていたが、四年生の研究室配属時、ほとんど研究しないまま就活に。せっかく工学部に入ったのに、レールを敷かれたような実験しかできないままで終わるのは嫌だと思ったから。
青木 研究したくて大学に入ったのに、四年生の一年間だけでは身につかないと思って、進学した。
有働 皆さんは「研究したい」と思って大学に入ったの?
全員 大学には、研究がしたくて入った。研究って、何をやっているかよくわからないけど、かっこよさそうだった。研究している自分は、ちょっとかっこいい(笑)。
◆工学部は就職有利
―就職活動はどんな状況?
青木 他学部は推薦がないらしいが、工学部は推薦メインなので、院生の就活は比較的楽だと思う。
井澤 工学部は色々選択肢があっていい。どの分野でも採用される雰囲気。逆に選べて迷う。
横溝 研究開発に絞っていない。科学的な研究だけでなく、ものづくりもやってみたい。自分がやりたかったのとは違うものが降ってきて、逆に面白いことがある。
―将来どんな人生を送りたい?
横溝 結婚して子どもも産んで、仕事も続けたい。せっかく大学に入ったのに、もったいないから。
井澤 私のまわりでも育児と仕事の両立を望む人が多い。
鈴木 良い人がいれば結婚したいけど自分が楽しいことをやりたい。
有働 社会環境は、育児と仕事の両立を望む人にも追い風。自分のやりたい道に進めるといい。
◆東北大学工学部で得たもの
―これまで来た道を振り返って、東北大工学部に入ってよかった?
井澤・野村・青木・鈴木 満足。
横溝 研究する環境には満足。しかし、研究室に長時間滞在していると外部の人たちと接する機会が少なくなるので、外にも出る。
鈴木 私も授業や研究で疲れた時、海外好きなので、国際学会などでリフレッシュする。その意味でも、今は恵まれた環境だと思う。
井澤 私の研究室でも、希望すれば海外の国際学会で発表することができる。つまり、自分がどうしたいのか、すべては自分次第。
鈴木 振り返ると高校時代は勉強ばかりで視野が狭かった。興味を持って取り組めば、視野は広がる一方だ。昔の興味を守り続けようとこだわらず、その時々にあった 幸せを選べば良いと思う。
有働 最初から成功する人はいないし、その時その時の課題を自分で考えることが大事。自分で考えた経験の積重ねが人を成長させるはず。