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「光技術」テーマに未来を展望/ノーベル賞・中村修二さんら仙台で講演

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「光技術」テーマに未来を展望/ノーベル賞・中村修二さんら仙台で講演

2015年2月3日公開

1月31日に開催された「光技術 革新と進化がもたらす社会」のようす=東北大学川内萩ホール(仙台市)

 「高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオード(LED)の発明」で2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二さん(米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)らによる講演会「光技術 革新と進化がもたらす社会」が1月31日、東北大学川内萩ホール(仙台市)で開かれた。東北大学と河北新報社の主催で、大学関係者や中高生など約750人が参加した。


イントロダクション 「光を放つ半導体」
秩父重英さん(東北大学多元物質科学研究所教授)

秩父重英さん(東北大学多元物質科学研究所教授)によるイントロダクション「光を放つ半導体」

 講演会ではまず、秩父重英さん(東北大学多元物質科学研究所教授)が「光を放つ半導体」と題し、この後に続く二人の講演者や、光通信発祥の地としても知られる東北大学の研究について、中高生や一般向けにわかりやすく解説した。

 一人目の講演者である中沢正隆さん(東北大学電気通信研究機構長、電気通信研究所教授)は、「エルビウム光ファイバー増幅器」という、光通信の途中で弱まってしまう光を再現性よく整形して増幅する技術を開発。この技術により今日の高速・大容量な光通信が実現し、インターネットや電話になくてはならぬ技術をつくったことが解説された。

 二人目の講演者である中村修二さんは、「窒化インジウムガリウム」(InGaN)という材料で青色LEDを開発し、2014年にノーベル物理学賞を受賞。現代の照明や表示に無くてはならぬ技術をつくった意義が語られた。このほか、青色LEDの基本原理や、青色LED研究に従事した東北大学教授陣の研究についても概説された。


東北大学講演 「光通信技術はどこまで進化するのか」
中沢正隆さん(東北大学電気通信研究機構長、電気通信研究所教授)

中沢正隆さん(東北大学電気通信研究機構長、電気通信研究所教授)による講演 「光通信技術はどこまで進化するのか」

 続いて、中沢正隆さんによる「光通信技術はどこまで進化するのか」と題した講演があった。まず中沢さんは、電気通信研究所から生まれた、八木・宇田アンテナやマグネトロン、磁気テープや光通信の3要素など、歴史的発明を紹介。次に、光通信技術の基本技術について解説した後、光通信の最前線と将来展望を概観した。

 光通信は、異なる波長の光信号を同時に使うことで高速で大容量のデータ通信を行う「波長分割多重」と呼ばれる技術と、光通信中に減衰してしまう光パワーを約千から一万倍増幅する「エルビウム光ファイバー増幅器」の技術により、1997年頃から大容量化に成功。この技術は太平洋横断ケーブルなど海底ケーブルにも使われ、世界が光ファイバーでつながった。

 ところが、光ファイバーに高い光パワーを入れると、光ファイバーのコアが溶ける「ファイバーフューズ」という現象が発生する。このため、光ファイバー一本あたりの伝送容量は、100テラビット/秒(テラは一兆倍)近辺が限界と考えられている。一方で近年、通信トラヒックは年々急増し、インターネットの情報量は年率約40%の割合で増えている。つまり、20年後には1.4の20乗で約千倍の伝送容量が必要になる。しかし今、光通信の研究分野には、現状の千倍の性能を持つ光通信インフラを実現する技術がないという。

 そこで中沢さんらは現在、現状の約千倍の性能を持つ光通信インフラの実現を、産学官連携で目指している。光ファイバーのコアに入れられる光パワーの上限が決まっているため、複数のコアを一本のファイバーに配置する「マルチコアファイバ伝送路技術」や、一つのコア中にたくさんのモードを乗せる「マルチモード制御技術」、無線通信に匹敵する高効率な「超多重化コヒーレント光伝送技術」。これら3つの革新的光通信技術を同時に実現することで、20年後の社会的要請に応えたいと結んだ。

 さらに中沢さんは「光通信でまだできていないことはたくさんある」と指摘。最先端の研究者たちは光の速度の制御に挑戦していることや、光の粒子性を使った量子暗号通信の研究も進んでいることなども紹介。一度成長期を迎えた光通信が今また新たな発展期を迎えていることを次世代に伝えた。


特別講演 「窒化インジウムガリウム青色LEDと紫色半導体レーザー」
中村修二さん(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)

中村修二さん(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授による特別講演 「窒化インジウムガリウム青色LEDと紫色半導体レーザー」

 最後に、中村修二さんが「窒化インジウムガリウム青色LEDと紫色半導体レーザー」と題して講演。中村さんは、青色LEDの基本的な構造と発光原理を概説し、青色LED発明までの道のりを、ざっくばらんに語った。

 中村さんが青色LEDに挑戦した当時から、材料の候補は、セレン化亜鉛 (ZnSe) と窒化ガリウム(GaN)があった。しかし、GaNは結晶欠陥が多過ぎ良い結晶ができないため、ほとんどの研究者はZnSeを選んだ。応用物理学会で、ZnSeのセッションには500人以上も聴講があったが、GaNは10人弱で、聴講はわずか1、2人。赤崎勇さんや天野浩さんら(2014年ノーベル物理学賞受賞)が発表し、それを中村さんは「こっそり聞いていた」。

 なぜ中村さんは、人気のないGaNを選んだのか。中村さんは、日亜化学工業で約10年間、発光ダイオードを研究開発した。しかし会社の売上は思うように伸びず、まだ実用化されていなかった青色LEDへの挑戦を、冗談半分で当時の社長に直訴した。意外にもあっさりと許可が降り、1988年から1年間、米国フロリダ大学に留学。ところが博士号がないために研究者として扱われず、苦しい日々を送った。

 1年後、米国から会社に戻った中村さんの夢は「博士号をとること」。博士号取得には当時、5本の論文執筆が必要だった。既にZnSeは論文が山のようにあったが、GaNの論文はほとんどなかった。「GaNなら、自分でも論文を書ける」。そう思った中村さんは、2億円もする市販の装置を会社に購入してもらい、まず基板上にGaNの結晶膜をつくることから始めた。ところが数ヶ月やっても結晶はできない。悩みに悩んだ。「この装置は改造しなければならない」。毎日午前7時から午後7時まで、土日返上で研究に没頭した。

 そして完成したのが「ツーフロー」という方式の装置だ。ガスを基板の2方向から吹き付ける方法を、中村さんは独自にあみ出し、GaNの結晶膜の成長に成功。「これで論文が書ける」と喜んだ。次は、GaNバッファー層だ。これも世界一の成果がまた出た。さらに、p型GaNという半導体を熱処理で実現し、そのメカニズムも解明。すでに赤崎さんや天野さんが電子線照射で成功していたが、中村さんは熱処理だけで実現できることを示した。そして1993年、従来の青色LEDの百倍の明るさのInGaN層を発光層とする、ダブルヘテロ構造高輝度青色LEDの発明に成功。これらの業績がノーベル物理学賞の受賞につながった。

 ただ、InGaNの結晶欠陥は10の9乗個/平方cm。青色以外のLEDは10の3乗個/平方cmまで、結晶欠陥を減らさなければ明るく光らないのが常識だった。「なぜInGaNだけが明るく光るかはミステリーだった」が、1996年、秩父さんが「Inの局在効果が関連している」と解明した。このほか、中村さんは現在研究を進めている紫色半導体レーザーを使った照明についても紹介した。

 最後に、次世代を担う高校生たちへのメッセージ。長い目で見れば、本当に自分の好きなことを見つけることが重要だ。高校生は好きな科目を見つけて、一生懸命頑張って勉強して欲しい。また、欧米では博士号が大変重要。これからのグローバル化時代、日本人もどんどん外国に出る必要がある。皆さんも、博士号を取得するつもりで頑張って欲しい。


会場からの質問コーナー

会場からの質問に応える中村さんと秩父さん

Q.中村先生の考える光の面白さとは?(高校生)

A.可視光で色々なことができるので、色とりどりで面白い。

Q.これからのLEDの可能性とは?(高校生)

A.LEDは値段がまだ高い。LEDは効率が悪いため、長い目で見れば、照明はLEDからレーザーに変わるだろう。レーザーは高速通信も可能なため、通信の観点からも面白い。

Q.ディズニーランドのエレクトリカルパレードを見てどう思うか?(小学生)

A.非常に綺麗で嬉しい。

Q.小学生の時、どんな勉強をしていたか?子供の頃の夢は?(小学生)

A.算数と理科と図工が好き。他の文系科目は大嫌い。しかし今は本も書いている。歳とともに他の教科が好きになる。

Q.部活は何をしていたか?

A.中高6年間バレーボール部だった。自分たちで激しく練習したが、あれだけ苦労したのに、試合は全部負けた。あれ以上の苦労はない。それが大人になってからの自信になっている。

Q.科学者にとって必要な素質とは?(大学生)

A.人それぞれなので何が良いとは言えないが、一番大事なのは探究心。研究の謎解きが好きで、科学者になった。小さな頃から色々な問題を自分なりに解くのが好き。自分の頭で考えた方が楽しい。

Q.研究成果のアピール能力を身につけるために心がけることは?(大学生)

A.私は全部自己流。偉い先生についた試しもない。

A.(秩父さん)卑下せず、うぬぼれないこと。自分はこれだけできると正しく伝える。そうでなければ外国では相手にされない。

Q.研究生活の中で一番楽しい瞬間と辛い瞬間は?

A.一番面白いのは謎解き。謎が解けたら最高に嬉しい。

Q.日々の研究で譲れないことは?

A.成果は論文に書く。論文と特許が科学者の全て。論文を読んで評価して欲しい。

A.(秩父さん)正しいと思ったら伝える。「できない」とは言わない。「できる」より「できない」を証明する方が難しい。

Q.4日後に修論審査会がある。アドバイスと激励を。

A.大きな声で、はっきり自信を持って話すこと。自分が知らないことは言わない。知ったふりをすると、すぐに追求される。

Q.好きな食べ物は?(小学生)

A.ラーメンとうどん。日本に帰ったら最初に食べる。

Q.次世代を担う若い世代や東北にメッセージを。

A.いつも私はどん底まで行って苦労して、「それ以上のどん底はない」と苦労を捨てずにエネルギー源にして研究に費やしてきた。皆さんも、東日本大震災での苦労をぜひエネルギー源にして頑張って欲しい。


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